第4話:ストーカーじゃないですよ・・・。
朝、仲里さんと挨拶をすることは、それは普通になった。
でもバスのなかでは横に座らないから話もしない。
授業中は仲里さんの背中を眺めてる。
なにを思ったのか、ときどき仲里さんが後ろを振り向いたりするから
油断できない。
だから僕はあわててプイって別の方向を見たりする。
危ない危ない、バレてないとは思うけど・・・じっと見てるなんて
知られたらストーカー扱いされるよ。
楽しみなのは帰りのバス停、唯一仲里さんとふたりきりになれる・・・
乗客は僕の目には入らない、見えるのは仲里さんだけ。
勇気出して仲里さんの隣に座れたらって思うけど図々しくそばになんか
寄れない・・・さりげなくも座れない。
イヤな顔されたら困るし・・・。
で、な〜んにもないまま、いつものようにバスはマンション手前の停留所
に止まった。
僕は里中さんが降りてから少し離れて彼女の後ろ姿を見ながら帰る。
でも今日は違った。
バスを降りた仲里さんが帰ろうとしない・・・で僕の方を見てる。
僕じゃなくて誰かを待ってるのかなって思ったから、僕は後ろを
見たり周りを見たりした。
バスを降りたのは僕と仲里さんだけ・・・じゃ〜・・・。
え?もしかして僕?
そしたら仲里さんが僕のほうに近づいてきて言った。
「歩きましょ」
「牧村さん・・・いつもストーカーみたいに私の後ついてきてますよね」
「え?ストーカーって・・・」
「ストーカーに間違われますよ」
「違いますよ・・・ストーカーじゃないですよ、遠慮して離れて
帰ってるだけです」
(結局ストーカー扱いされてるし・・・)
「それならいいですけど、ストーカーまがいなことするなら私と一緒に
帰えったほうがいいんじゃないですか?」
「雨の日だって傘して帰ったじゃないですか?」
(ストーカーじゃないってば・・・)
「そう・・・ですけど?・・・いいんですか?」
「からかってません?」
「私、男の人からかったりしません」
「ただストーカーみたいに後ろについてこられると気になるんです」
(だから〜ストーカーじゃないって・・・)
「一緒に帰ればって思って・・・イヤならいいですけど」
「あ、あ、あ・・・イヤなんかじゃないです、とんでもない」
「しょ、しょ〜承知つかまつった」
「一緒に帰っていいのなら一緒に帰りたいでござる」
「なにそれ?」
「牧村さんって焦ったり自分の気持ちごまかそうとする時ってそう言う言葉
よく使うでしょ」
「え?」
「ござる、とか、かたじけないとかお侍さんみたいな言葉よく使ってるけど・・・」
「ござるは言ってるけど、かたじけないは言ってないと思いますけど・・・」
「って、僕、仲里さんとそんなに喋ってないですよ」
「教室で牧村さんとお友達との会話、聞いてたら言葉の端々によく言ってますよ」
「え、聞いてたんですか?・・・あんなくだらない話を・・・」
「聞くつもりなくても、男子は声が大きいから聞こえて来るんです」
「そうですか・・・バカ話ばっかしてるからな・・・」
そうこうしてるうちに仲里さんと一緒にマンション近くまで帰ってきた。
「牧村さん・・・急いでないなら少しお話しません?」
「え?僕とですか?」
「そうですよ、なにボケかましてるんです?、他に誰がいるんですか?」
で、僕たちはマンションの敷地の中にある小さな公園の、ふたつある
ブランコにそれぞれ座った。
で、彼女がまた先にしゃべりはじめた。
「牧村さん・・・牧村くん、お母さんとふたり暮らしなんでしょ?」
「え?・・・ああ、はいそうですけど」
「私のうちも同じ・・・お母さんとふたり暮らし」
「同じだね・・・」
「ああ、そうなんですね、僕の父親は僕が幼い時亡くなったんだそうです」
「私のところは・・・お父さんとお母さん離婚しちゃったんです」
「ああ、そうなんですか・・・」
なんて言えばいいんだか分からなくて僕は適当な相槌を打った。
「まあ、大人の事情ってありますもんね」
「大人は勝手です・・・」
「あ・・・はあ、そうですよね」
(勝手っ言うか・・・僕んちは離婚じゃなくて、亡くなってるんだけど・・・)
しばらく沈黙が続いた。
この後、他になにをしゃべればいいのか・・・。
なにも喋らなくても、このふたりだけの時間が僕には貴重なひとときだった。
なにも会話がないままふたりのブランコが夕日に照らされて交互に揺れていた。
つづく。
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