ため息の行方。〜相合傘〜

猫野 尻尾

第1話:一目惚れ。

その子は中学の時、同級生の中にはいなかった。

きっと高校に入学した時、どこかよその地区、学校から転入して来たんだ。


朝イチ授業がはじまる前に、その子は先生からクラス全員に紹介された。


「はじめまして仲里 紗凪なかざと さなです」


彼女はちょこんと誰ともなしにお辞儀した。

仲里 紗凪なかざと さな

髪が長くて、整った顔立ち・・・背ははさほど高くは見えない。

だけど顔が小さいのと全体のバランスがいいから、スタイルがよく見える。

伏せ目がちに挨拶した彼女は少し顔を上げて教室内を見回した。

そして、またお辞儀をした。


僕の名前は「牧村 愛彦まきむら よしひこ」16才・現役高校生。

父親とは幼い時死別していて今は母親とふたり暮らし。


ブ男ってほどひどくはないけど、かと言ってイケメンって部類じゃない。

特にモテるわけもなくモテない訳でもない。

肉食系でもなければ草食系でもない、可もなく、不可もなくって感じ。

いわゆる普通。


教壇に立っている彼女を僕はぼ〜っと見とれていた。

とても綺麗な子だと思った。

そして僕のタイプだって・・・それは完全に僕の一目惚れだった。


そう思ってる男子はこのクラスに、けっこういるんだろうな?

ライバルだらけになりそう。


その時点で僕はわずかな希望と同時に絶望感を味わった。

僕にとって彼女はきっと高嶺の花。

もし、もし僕と付き合ってって告白しても、こんな綺麗でスタイルの

いい子が・・・僕なんかと付き合ってくれるわけないんだ。


ほんの少し、期待感なんか持って、意味ないことを考えてるバカな僕。

彼女の席は僕の席の斜め前・・・。

隣とか前か後ろだったらよかったのに。


その時点で、諦めなさいって神様に言われてるようだった。


でも学校からの帰りは彼女と一緒の方向だったみたいで、僕が利用してる

バスの停留所に彼女もいた。

そして同じバスに乗って降りる場所も同じだった・・・。


家はこの近所かなって思ってたら・・・なんと彼女の住まいは僕が住んでる

マンションの部屋の横隣。

なんでそうだって分かったかって言うと・・・。

その晩、彼女と母親が僕の家に引越しの挨拶に訪ねて来たからだ。


僕の母親が玄関に出て対応していた。

玄関先から彼女と彼女の母親らしい声が聞こえた。

僕は小っ恥ずかしくて、とても挨拶になんか出て行けなかった。


そしたらいるのに挨拶もしないじゃ失礼だよって母親が僕を呼びに来た。

しかたなく僕は玄関に挨拶に出た。


私服を来た仲里さんが、お母さんと立っていた。


「ほら・・ちゃんとご挨拶なさい」


「どうも・・・「牧村 愛彦まきむら よしひこ」です・・・よろしくお願いします」


「あ、こちらこそ、昨日お隣に引っ越して来た仲里です」

「どうぞよろしくお願いします」


母親はそう言った。


「よろしくお願いします」


彼女もそう言って頭を下げた。


「息子さん、紗凪と同級生なんですってね、仲良くしてやってくださいね」


「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」


学生服じゃない彼女は少し大人びて見えた。


僕は彼女が、仲里さんが転入してきて以来、日を追うごとに彼女に対する

想いが、どんどん膨らんでいった。


授業中でも彼女の後ろ姿を憧れた人を見るように眺めていた。

まるでストーカーまがいに・・・。


こんな気持ちになったのは、ほんと中学の時以来久しぶりな気がする。

仲里さんと、少しでもいいから話がしたかった。

でも休憩時間や昼休みは彼女とふたりだけでと話すチャンスはなかった。

転入生が珍しいのかいつも誰かが彼女の横にいた。


結局、彼女に近づけるチャンスは帰りのバス停とバスの中だけ。


気持ちをはっきりさせたいけど、できない。

たとえば勇気を出して告白したとしても仲里さんに断られたら、そのあと

彼女と顔を合わせてもきっとギクシャクしてしまう。

今まで以上に気軽には話せなくなる。


そんな悪い考えが浮かぶせいで、好きだと言えない。


出るのはため息ばかり。


その日は、朝方、天気だったのに午後になって雨が降り始めた。

雨は下校時になっても止まなかった。


僕は間抜けなことにその日に限って、傘を持たずに家を出てきていた。

帰りは濡れるを覚悟でバス停まで走る羽目になった。


だから一気に屋根のあるバス停まで必死で走った。

まだそれほど激しい雨じゃなかったせいで、ずぶ濡れは免れた。

学生服についた雨粒を払いながら、ふと見ると僕より先に来たんだろう。


仲里さんがバス停のベンチに座っていた。


(仲里さん・・・)そう思って、さりげなく彼女を見た。

そしたら彼女も僕に気づいて、こちらを見た。


僕を見上げる彼女のその憂いに満ちたあどけない面立ち・・・めちゃ可愛いかった。

それだけで僕は自分がダメ人間になりそうな気がした。


つづく。



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