第14話:余計なことを言ったばっかりに。

紗凪の肝臓の「生検」細胞検査の結果が出た。

肝臓にあった白い影は良性で今のところは大丈夫、ただこの白い影が黒く

変わったらガンの可能性が出てくるんだそうだ。


そういうわけで紗凪は三ヶ月に一度の経過観察に病院へ行くことが決まった、

付き添いはもちろん、お母さん・・・僕は恋人でも蚊帳の外。

それが僕を少しナーバスにさせた、その気持ちがのちに紗凪に余計なことを

言ってしまう火種になったかもしれない。

お互いが認め合っていても社会では認めてもらえないってこと、それが現実。


それでも紗凪は僕にとって大切な人、普段は紗凪と学校へ通った。


いつものように僕は紗凪に気を配っていた。

ある日、紗凪を遠からず近からず見ていた時、昼休みの校舎の裏だった。

紗凪が生徒会長の西田と会ってるところを見てしまった。


なにかいけないものを見てしまったような後ろめたい気持ち。


出しゃばって出て行って、気まずい雰囲気になってもいけないと思って、

その時は見て見ぬ振りして教室へ戻った。

でも正直いい気持ちはしなかった。


学校からの帰り、校舎を出たところで僕は紗凪にさりげなく確かめてみた。


「あのさ、今日昼休み、生徒会長の西田と会ってたでしょ?」


「え?愛彦見てたの?」


「見てたけど僕が首突っ込んで気まずい雰囲気になっちゃいけないかなって」

「だから・・・すぐに教室に戻ったけど・・・」


「え〜なんで来てくれなかったの?」


「え?行ってもよかったの?」


「そうだよ、私の彼氏でしょ・・・私と西田くんの間に入ってくる権利、

愛彦にはあるんだよ」


「いや、いくら彼氏でも立ち入っちゃいないことだってあるかと思って 」

「紗凪、西田となにかった?」


「西田くん、私と付き合ってほしいって・・・」


「なに、それ?」

「西田のやつ、紗凪に告ったのか?」


「だからね、言ったんだよ、好きな人いるし、もう彼氏いるからって」

「そしたら知ってるって・・・俺だって君が転入して来た 時から好きだった

んだって・・・」

「その彼氏・・・っていうか牧村がいても俺は構わないから付き合って

くれって 」


「図々しいやつだな・・・三角関係やろうってか?」


「だからね、邪魔しに来てくれたほうがよかったんだよ」


「僕が出てったら、余計やっかいなことになってなかったか?」

「それで西田にちゃんと断ったの?」


「まだ・・・」


「え?なんでよ、なんでごめんなさいって言わなかったの?」


「だって、すぐに返事くれなくていいからって、だから考えといて

くれないかって言って、さっさと行っちゃったんだもん 」


「そうか・・・」


「大丈夫だよ、ちゃんと断るからね」


「・・・西田、優秀だもんな・・・」


「え?」


「あいつ勉強だって優秀だろ?、運動だってできるしな」

「おまけに、あいつの親父、大手企業のCEOかなんかだろ、家は大富豪

だって言うじゃん」

「僕や僕んちとは月とスッポン・・・なにもかも僕より上だもんな」


「・・・僕より西田にほうがいいかもな・・・」


「なにが? ・・・なにがいいの?」

「愛彦、なに言ってるの?」


「僕より西田のほうが、金銭面でも苦労なさそうかなって・・・」


「なに?私に西田くんと付き合えって言うの?」


「・・・・・」


「それ本気で言ってる?」


「あ、ごめん、冗談だよ・・・」


「冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ」

「なんでそんなこと言うの?」

「ひどくない?」


「紗凪の将来を考えただけ・・・だからさ、冗談なんだから、そんなに

ムキにならなくても・・・」


「なるよ、愛彦が冗談でも一瞬でもそんな、ひねくれたこと思ったことが

私許せない・・・」

「・・・最低!!」


「いやいや、本気じゃないからって言ってるじゃん?・・・」

「ごめんって・・・」


「私の気持ち無視して・・・もう話したくない」

「今日私、ひとりで帰るから・・・」


そう言って紗凪は、振り向きもしないで走り去って行った。


やべえ・・・マズったな・・・怒らせちゃったよ。

僕が西田にヤキモチなんか焼いたせいで、余計なこと言っちゃった。


帰ったらもう一回謝らなくちゃ・・・。

まさかだけど、あんなことくらいで別れるなんて言わないよな。


でも、それがそうもいかなかった。

スネたお嬢さんの不機嫌はこれがなかなかのもんだったんだ。

女を怒らせると怖いってことを僕ははじめて思い知らされることになった。


つづく。

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