第8話:またもや相合傘。

そして次の日・・・僕の晴れやかな気分とはうらはらに雨になった。

と言っても午前中は晴れてたんだ。

だから僕はまた傘を忘れて家を出た。


「おはよう紗凪ちゃん・・・」


「おはよう愛彦くん」


今は昨日の公園のブランコに座った時とは少し違う。


それは紗凪ちゃんと顔を合わせた時、お互いが笑顔だってこと。

それまでは教室でもバス停でもバスの中でも話もしなし笑いもしなかった。


今は違う。

なにかあったら僕が彼女の心の傷を癒してあげないと・・・。

そんな守護的な気持ちが僕に芽生えた。


授業中でも、昨日とは違う。

僕は後ろから紗凪ちゃんを見ながらバカみたいにニヤニヤしっぱなしだった。


でもこう言う普段とは違ったことをやると必ず見てる奴がひとりくらい

いたりするんだ。

自重せねば・・・まあ何か聞かれても普通に友達なだけだから・・・。


そう友達・・・一歩前進した。

でも、この友達って縛りがその後の僕の切ない気持ちをさらに切なくさせる

ことになるんだ。


下校時、本当なら紗凪ちゃんと仲良く教室を出たかったけど周りの目が

あるから、急に仲良くしてたら誰かに突っ込まれそうな気がして僕だけ

先に校舎を出た。


その日はやっぱり下校時になっても雨は止まなかった。

校舎の玄関の屋根の下で僕はうらめしそうに空を見た。


「またバス停まで走るつもり?」


「え?」


そう言われて振り向くと僕の斜め後ろに背後霊みたいに紗凪ちゃんがいた。


「いつの間に?」

「あはは、傘忘れちゃって」


「なんで言ってくれないの?」


「いや〜また傘忘れたなんて言ったら、怒られると思って」


「本気で忘れたんでしょ?、ワザとじゃないんでしょ?」

「だったら怒ったりしないよ」

「でも学習能力のない人」

「今度からお天気の日でも折りたたみ傘持って来ればいいんだよ」


「分かったよ・・・やっぱり怒られてるじゃん・・・」

「で?僕はバス停まで走ればいいのかな?」


「な、わけないでしょ」

「ずぶ濡れになってる人見たくないし」


「じゃ〜相合傘、お願いしますでござる」


「しょうがないね、傘に入れてあげるでござるよ」


「かたじけない・・・あ、言ってる、かたじけないって・・・」

「そうでしょ、聞き逃してないんだからね、私」


(なんだこの会話)

(友達だろ・・・なに?この段階で僕、紗凪ちゃんの尻に敷かれてる?)

(僕がダメダメ男子なだけか?)


「前と違って帰りは学校を出てから、ずっと紗凪ちゃんと一緒だ」


でも僕たちは相合傘で仲良く帰ってるところをきっちり見られていた。

クラスで一番の拡声器な女子に・・・。


「あのさ・・・前から思ってたんだけど、愛彦くんて「なにわ男子」の

中のメンバーの子に似てるよね」


「なにわ男子?」


「私、ファンって訳じゃないから、なにわ男子のことそんなに詳しくは

ないけど・・・」


そう言うと紗凪ちゃんはなにわ男子のメンバーを検索して、この人って

見せてくれた。


「ああ、この人ね・・・あはは、似てるのかな?」


「似てるよ・・・愛彦くんって少し中性的なところあるでしょ」


「え?そうかな、普通だと思うけど・・・」


「きっと優しいお母さんに育てられたからだよ、ギスギスしてないし、

普段キレたりしないでしょ」


(え?普通にキレるけど・・・)


「のんびりしてるってのは言われるけどね・・・」

「でもさ、僕がこの人に似てても紗凪ちゃんのタイプじゃなきゃ意味ないし・・・」


(お〜っと、なにカマかけるようなこと言ってんの?、僕)


「タイプじゃなきゃダメって・・・そんなことないけど・・・」

「雨、止みそうにないね」


(そんなことないけどって?・・・意味深な発言)

(その言葉、どう取ればいいんだ・・・)


「ああ、そうだねマンションに帰るまでは止まないでほしいかも」


「止んでも止まなくても一緒に帰るでしょ、同じ方向なんだから」


「おお、そうか・・・」

「じゃ〜ねえねえ、おネエさんまっすぐ帰るのやめて、昨日みたいに

マンションの公園で僕と遊ばな〜い」


「なにそれ、また照れ隠し?・・・なんでクレヨンしんちゃんがいきなり

出てくるの?」

「素直に公園に寄ってお話ししない?って言えばいいでしょ?」

「って言うか、公園なんか寄らなくてもベランダでお話しできるでしょ」

「ほんと変な人・・・」


つづく。

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