242 新たな目標


「さぁ、村に戻ろう!」

{久しぶりに皆さんに会えるのが楽しみです!}


 一行が村の入り口に到着すると温かな日差しの下、村人たちが集まって出迎えていた。

 ムルコ家の家族もその中に混じっており、ニョムロケットに続いて他の兄弟たちも駆け寄ってきた。


「ロラーーン! 帰ってきたんだね!」

「よう、ニョムー!」


 ニョムはロランにしっかりと抱きしめられ、目を輝かせて大喜びだ。


「エリクシルお姉ちゃん! おかえりなさい!」

{ふふふっ、ただいまニョムさん!}


 次いでエリクシルとも再会のハグをかわす。


 その後ろから、コスタンがゆっくりと歩み寄ってきた。


「皆さん、お帰りなさい!」

「{コスタンさん、ただいま戻りました!}」


 コスタンと熱い抱擁を交わした後、ロランが胸を張って応え、リサを一歩前に促して紹介した。


「こちらが俺たちの仲間のリサさんです」

「これから村でお世話になります!」


 リサは慌てて深く頭を下げ、少し緊張した面持ちで挨拶すると、エリクシルがリサの横に並び立つ。


{リサさんはまだ共通語を勉強中なのでわたしが通訳しますね!}

「エリクシルさん、お願いしますぞ! ……では、シャイアル村、ゴホン、いえ、いずれ町になります、町長のコスタンです。私たちはあなたを歓迎します。さぁ、話は中でしましょう」


 村人たちに囲まれるようにして、コスタンの家へと向かう一行。

 ロランとリサが村の温かさを全身で感じる中、変わらぬコスタンの家にはラクモとチャリスが待っていた。


「おかえり、ロラン」「やっと帰ってきましたぜ!」

「ラクモ! チャリスさん!」


 ラクモがロランを抱きしめ、チャリスもにこやかに手を差し出す。

 その様子を見てリサも少しずつ緊張がほぐれ、自己紹介と共に頭を下げた。


 そして始まったのは、村人たちへのお土産タイムだ。

 ニョムやその兄弟たちには可愛い雑貨、ムルコには焼き菓子用の型、コスタン夫妻には香り高いお茶、ラクモにはエルフ木彫りのピギィブラシ、チャリスには強力な火打石、麦の雫セイムドロップの樽、ネレイス・レペリアのボトルや保存食など村人たちも喜びそうなものが次々と手渡された。

 家の中が歓声で満ち、柔らかな空気が場を包んでいる。


「わあ! すごくかわいいカバン! 本当にありがとう、ロラン!」

「ニョムずるーい!」

「ミョミョちゃんはお人形さんもらったでしょ!」

「はっはっは、ニョム。その髪留めはリサさんからだぞ。お礼言っておけよ!」

「うん! リサさん! リボンありがとう、大切に使うね!」


 ロランは微笑み、リサもほっとしたように柔らかな笑みを浮かべた。


{リサさん、皆さんの温かさを感じますね。あなたも受け入れられていますよ}

「……うん。ありがとう、エリクシルさん」


 リサは微笑みながらうなずき、安心したような柔らかな表情を浮かべる。


「こんなに色々と……ロランさんも律儀ですぜ!」

「このブラシ、気に入った!」


 チャリスが軽く肩をすくめ、ラクモは早速、髪の毛を整える。


「この酒は夜に皆でいただきましょう! ロランさん、エリクシルさん、そしてリサさん、ありがとうございます!」

「いいえ……!」

{喜んでいただけて何よりです}

「へへ、あと、コスタンさんとラクモ、これはダンジョンの稼ぎの取り分です。どうか受け取ってください」


 ロランはラクモとコスタンに4,000ルースずつ手渡そうとする。


「なんと!」

「うわ、すごいな!」


 コスタンが受け取るのを渋るため、ロランはその手を取って握らせる。


「約束通り。俺たちが使ったあとの余剰金、これは当然の分け前ですよ」

「いやしかし……こんなに……!」

「……コスタンさん、ダンジョン運営のためにも受け取っておくべきだよ」

「うむ……そうでしたな」


 コスタンは深くうなずき、受け取った金額をじっと見つめる。

 村の未来に想いを馳せているのかもしれない。


「そういえば、ダンジョン運営の進捗ですが、その後どうなっていますか?」


 ロランが尋ねると、コスタンは金貨をしまい、周囲の目を引きつけるようにして話し始めた。


「さて、ここまでのダンジョン探索ですが、皆さんの協力で少しずつ進展しています。地底の構造についても興味深い発見がありましたが、まだ次の層までは到達していない状況です」

{地底湖に地下風穴、鉱石の大洞窟、そして地下森林を発見したんですよね。次の層に進むには、特殊な装備や物資も必要になるのではないですか?}


「そう、まさにその通りです。魔物の脅威は少ないのですが……物資の準備が肝心です」

{たしかにそれらの構造では探索も容易ではないでしょうからね}


 エリクシルが頷きながらメモを取るような動作を見せる。

 少し落ち着かない様子のリサの横で、ロランが尋ねる。


「今も騎士様とやらが探索しているんですか?」

「ええ、現在も探索の先頭に立つのは、騎士タリオン様が率いる光輝の尖兵ルミナスヴァンガードですな。ラクモさんやチャリスさん、村の皆さんも協力して道を拓いていますーー」


 話が一区切りついたところで、コスタンが少し慎重な表情で付け加えた。


「それから、重要な話です。ダンジョン運営の許可に関して、タリオン様から運営計画書を執政官に提出するよう指示を受けましてな。これが承認されなければ、いずれ国や領主が運営に成り代わるそうです」

「あれ? もう許可されたんじゃないんですね」

「あのー……国が運営したほうが安全じゃないのかな?」


 リサが不思議そうに手を挙げて質問した。


{国や領主が運営するとなると収益の多くが外へ回され、村にはあまり還元されませんし……}


 言葉を切って、コスタンをちらりと見やるエリクシル。


{それに外部から役人が来るので、コスタンさんの権限が制限されてしまうでしょう。村にとっては、現地で管理できる方が有益なのです}

「その通りです。私たち運営できれば収益を皆にも還元できます」

「なるほど、村で管理したほうが自由も守られるんですね!」」


 リサが少し興奮した様子で話に聞き入り、ロランも真剣に耳を傾けている。


「計画書の作成には、村の規模を拡大し、冒険者や移民を受け入れられるようにするための予算や見積もりを織り込む必要があります。その上で、資金計画も立てなければなりません」

{資金の融資などの目途があるんですか?}

「ポートポランの商業ギルドから提案があります。条件はダンジョンで得られる素材の卸に関わらせることですが、いかんせんこのようなことは初めてでして……」


 エリクシルの質問に、コスタンが少し慎重な口調で答える。

 ロランがふと顔を上げ、エリクシルに視線を向けた。


{具体的な契約内容は十分に吟味する必要がありますが、村を拡大するためには融資は必要だと思います}

「えぇ、そのために! 村の未来のために、ぜひとも手を貸して欲しいのです!」

「エリクシルなら完璧にやってくれますよ!」

「私も村の一員として、できる限りお手伝いしたいです!」


 リサの力強い言葉にコスタンが頷き、目を細めて微笑んだ。


{それでは、まずはしっかり準備を整え、一丸となって未来に備えましょう!}


 エリクシルの力強い言葉に、全員が気持ちを一つにしたように感じられた。

 彼らの胸には、シャイアルの未来を共に築き上げていく決意が確かに息づいていた。


――――――――――――――――8章 完

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093088277138426

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:11 予定は変更される可能性があります

ヴォイドアウト SF民が異世界攻略 ぽんにゃっぷ @PonnyApp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ