歌え。世界は、広い。

人を悪夢に閉じ込めて生命力を奪う夢喰(むし)を祓えるのは、雛鳥だけ。オトはその雛鳥の住む鳥かごの中で、片羽だからと虐げられてきた――

作者様お得意の、オリジナルな世界観が目新しくも、どこか懐かしい。和洋折衷ファンタジーと謳うだけあり、神話や信仰と因習、戦争やスチームパンク要素、人命を脅かす存在とそれを祓う雛鳥など、様々な要素が綿密に織り込まれていて、みるみる惹き込まれる。

中でも主人公であるオトの境遇には、誰もが胸を痛めることだろう。
狭い世界では、周りと少しでも違うところがあれば忌み嫌い排除する者たちが一定数いるが、オトの場合はそれが『片羽』だ。

見映えも歌も周囲から蔑まれる彼女はそれでも、懸命に生きていた。どこか諦めつつも足掻く彼女を、どうにか幸せにしてあげたい一心で、読者はこのストーリーを追いかけるだろう。

そこで出てくるヒーローが、胡散臭い領事であるノアである。この胡散臭さが、一筋縄で行かないこの世界の背景を暗に写しているようで、最後まで目が離せないのだが……『綺麗な放物線と2体のゴリラ』と共に是非彼の挙動を楽しんでいただきたい。

閉じ込められた場所から出たいと熱望するのは、ある意味当然だ。問題は、連れ出された後からだ。さあ貴方は何を考え、どう生きるか。自分で決めて、歌え。

これは、そんな強いメッセージを感じる、生きるための物語だと思う。オススメです!

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