第10話 ゲーム


 

 結晶の淡い光に照らされる薄暗い洞窟の中。

 槍を振るう。

 槍によって体を貫かれ、絶命するゴブリン。

 何の感慨もなく、死体が消えていくのを見守る。


 銀貨だけが見えて、小さく落胆。

 銀貨を回収して、次の得物を探しに行く。

 そして同じことを繰り返す。


 いつもの日課である洞窟マラソン。

 ゴブリンを狩るのは、もはや日常の風景だ。


「今日もボスは復活せずか」


 途中で決戦場をチラ見するが、中には何もいない。

 霧の壁も発生しない。

 ただの通路とだだっ広い空間が広がっているだけだ。


 ホブゴブリンを死闘の末に倒して。

 あれから一週間が経った。


 あの日、森を見てからの帰り道。

 ホブゴブリンを倒してことで霧の壁は消えていて、事前の道中の安全確保の甲斐もあって、何の障害もなく帰還することができた。


 今使っている槍は、その時に得た戦利品。

 ホブゴブリンのドロップアイテムだ。


 『スピア(Tier2)』

 筋力+1

 魔法防御+1

 〈疾風突きゲイル・スラスト


 さすが、ボスからのドロップ品だけあって強力だ。

 Tier2でしかもスキル付き。

 こんなの使わない選択肢はない。

 ということで、小剣と盾から乗り換えて槍を使っている。


 実際に槍使いと戦ってみて感じた。

 槍って強い。

 射程は正義だ。

 小剣とかクソだわ!

 そんな訳で、槍をメインウェポンとして練習中だ。


 しばらくはゴブリン狩りで慣らし運転をしよう。

 そう考えてから一週間。

 攻略は1ミリも進んでいない。

 新ステージの森には全く触れずに日々を過ごしていた。


 槍のコツも掴んできたし、そろそろ森の探索に行きたい気持ちはある。

 だが、ホブゴブリンがいつリスポーンするか、わからないのがネックだ。

 森を探索した帰り道、ホブゴブリンが湧いてる、倒さないと帰れない、なんてことになったら最悪だし。

 毎日ボス部屋のリスポーンを確認しているのだが、なかなか現れない。


 これはあれかな。

 ボスは一度倒せば復活しないとか?

 それとも単純にリスポーンが遅いだけか。

 雑魚がデイリーで湧くなら、ボスはウィークリーなのかと思ったけど違うっぽいし。

 あるいは10日か、2週間か。

 もしかしたら一か月マンスリーなんて可能性も。


 帰り道に不安要素がある以上、前には進めない。

 というか、地味に道中が長いし面倒なんだよな。

 毎回洞窟を通って、ゴブリンも掃除しておかないといけないし。


 階層ごとにワープとかできないのかな。

 今はまだ何とかなるけど、これから先はどうなることやら。

 ファストトラベルの無いダンジョン攻略は、かなり大変そうだ。

 ダンジョン内で野宿とかワクワクするけど。

 ソロだとまったく休めなさそう。

 流石に怖いわ。


 というわけで、今は日課をこなしながら様子見中だ。

 ひたすらファームして銀貨を稼いでいる。

 レベルはかなり上がりづらくなってきた。

 相手がゴブリンだけでは、そのうち頭打ちするのかもしれない。


 日課のデイリー討伐が終わると、後は1日暇になる。

 あまりにも暇だったので、ついにパソコンを購入した。

 モニターやデバイスなどの周辺機器も含めて、総額50万円ほど。

 銀貨100枚なり。

 約2日分の稼ぎだ。

 そう考えると安く感じる。


 だが、日本円にすれば大金だ。

 PC本体の価格を抑えて、総額30万程度で抑えるつもりだったんだけど。

 もうちょっとスペックが欲しい、メモリやSSDも増やしたい、電源もよくして……とかやってたら気づいたらこの値段になっていた。

 まあ、金はあるんだし。

 変に我慢して後で不満を抱くよりは、ここで散財しておいた方がいい。

 結局買い足したり買い替えてパーツを交換するのも面倒だからな。


 毎日頑張って偉い。

 強敵を倒した自分へのご褒美。

 そう思うことにした。


 欲を言えば、電動昇降デスクだったり、良い椅子が欲しかったりしたが、まあその辺は追い追いで。

 こだわり始めたらキリがないし。


 PC環境が整って、待望のゲームができるようになった。

 日課を終えると、毎日寝るまでゲームしている。

 銃撃つの楽しい。


 レベルアップの影響で、反応とか器用さも上がっているから、めちゃくちゃゲームが上手くなっている。

 自分でも驚くほど反応が早いし、キーボードやマウスの操作精度も高い。

 元々の自分がゲーマーで、操作に慣れているのもある。

 元からあったゲーム知識も相まって、対戦ゲームで無双しまくっている。

 対人戦で相手をボコボコにできて、とても楽しい。

 合法的な俺TUEEEだ。


 アカウントレベルがランク戦が可能なレベルに達したので、さっそくランクマッチに挑戦した。

 そして連戦連勝。

 アイアン、ブロンズの低レートはもちろん、シルバー、ゴールド、プラチナあたりのレートも楽勝だ。

 1vs5でも勝てそうな勢いだ。


 ダイヤモンド、アセンダントとレートを駆け上がっていくにつれて、敵は強くなっていったが、多少歯ごたえが増した程度。

 正面からの撃ち合いでは負ける気がしない。

 ごり押しで何とかなる。


 イモータル、レディアント帯ともなると、流石に立ち回りで負けることが増えた。

 元々の私のレートはそこまで高くなかったのだろう。

 知識と経験の差を感じる。

 だが、FPSにおいてエイム力は、撃ち合いの強さは正義だ。

 私も馬鹿ではないのでわからん殺しをされれば学んで対応するし、敵が強くなっている分、味方も強くなっているのもある。

 自分の力を過信せず、味方との連携を心がけて丁寧にプレイすれば、勝つのは容易だった。


 そんなわけで、ランク戦をやり始めて数日。

 私は、そのゲームの最高レートであるレディアントへと昇格した。

 この調子で回し続ければ、ランク1位も夢じゃない。


 天上界の頂、ランク1位。

 それはとてもすごいことだ。

 このゲームのプレイヤーなら誰しもが憧れるだろう。

 もちろん私だってそうだ。

 1位になりたい。


 私は今日も今日とてランクマッチに勤しむのであった。

 勝ちまくれる対人ゲームは楽しい。

 FPS最高!


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