第11話 疑い



 (すべて)敵1:hack?

 (すべて)敵2:おいチーター。早くBANされろよ。

 (すべて)味方3(自分):?


 味方1:P3ってチーターなの?

 味方3(自分):違うよ

 味方2:嘘つけ。絶対使ってる。

 味方2:トリガーボット

 味方4:最近見かけるチーターだね

 味方4:高級チートなのかBANされない

 味方3(自分):決めつけはよくないよ!

 味方2:うるせえ、クソチーター、死ね。


「ははっ、言葉強いねぇ。暴言で通報してやろっと」


 最近、チートを疑われることが増えた。

 あまりにも撃ち合いが強すぎるが故に、チート扱いされているようだ。

 まあ、当然と言えば当然のこと。

 私だって普通にプレイしていて、突然化け物エイムのプレイヤーが現れたらそう思う。

 しかも調べてみれば、アカウントは作りたてで、聞いたこともない無名のプレイヤー。

 そんな奴がプロを圧倒するほどの撃ち合い能力を有している。

 チートを疑わないなら、逆にピュアすぎるだろう。

 でも、だからと言って暴言を甘んじて受けるかは話が別だ。


 実際、人間離れした反応速度とエイムではある。

 反応速度を測ってみたら平均0.1秒を切ってたし、エイムも狙った場所にピタッと張りつく。

 しかもそれが一瞬の上振れじゃなくて常に行われるし。

 チート扱いもやむなしだ。

 不正ツールは使っていないとはいえ、レベルアップも他の人にはできない、ズルみたいなものだしな。

 ダンジョンの存在は秘密にしている。

 他の人には享受できない恩恵だ。


 ぶっちゃけ、誤BANされてもおかしくはないとは思っていたが、チート対策ソフトウェアは沈黙を保っている。

 このゲームの運営会社のチート対策はとても優秀だと知識としてあるが、実際そのようだ。

 あからさまなチーターとは遭遇しないし、それなりに通報が飛んでいると思われる自分もアカウント停止になっていない。

 人力なのか、不正ツールの利用者なのか、きちんとチェックができている証拠だろう。

 もしかしたらまだ調査の手が及んでいないだけかもしれないけど。

 まあ、BANされたらその時はその時だ。


 ……いや、やっぱりBANされたら困るな。

 ハードウェアBANされたらかなり痛い。

 暇つぶしでやることが無くなる。


 根本的に、能力が高すぎることでチート扱いされているわけで。

 別ゲーをやっても同じことになりそう。

 そうなるともうオンラインゲームができなくなる。


「オフゲ―しかできなくなるのはやだなぁ」


 オンラインの対人ゲームが好きだし。

 どうにか疑いを晴らすべきか。


「チートの疑いを晴らすとなると、やっぱオフライン検証? でもなぁ、めんどくさ」


 界隈で信用されている人にコンタクトを取り、自宅検証でもすれば一発で疑いを晴らすことはできるだろう。

 けど、そこまでするのは面倒くさい。

 あらぬ疑惑をかけられている被害者なのはこっちなのに、どうしてそこまでしないといけないのか。


「あー、なんかムカついてきた」


 実際、どんなふうに言われてるのかちょっと気になるな。

 SNSでエゴサーチしてみる。

 ゲームのハンドルネーム、『Sena_dayo_715』で検索する。


「ほー、結構晒されてるなぁ」


 ちょいちょい自分のことをチート扱いして晒しているものがあってびっくりだ。

 同姓同名の別人という訳ではない。

 完全に私のことだ。


「なんかバズってる動画もあるし」


『チート!? 人力!? レディアント帯で鬼神のようなAIMの持ち主と味方になるラスティ』


 そんなサムネの動画がはられて投稿されたものがとてもバズっていた。

 軽く見てみると、やはり自分のことのようだ。


「わっ、フォロワーが50万人もいる」


 どうやらいつの間にか、有名な配信者とマッチングしていたらしい。

 配信者の名前は『ラスティ』。

 顔出しをしている女性配信者で、フォロワーが50万人もいる大人気ストリーマーのようだ。


 その配信が切り抜かれて動画にされていた。

 再生数はかなり回っている。

 なるほど、これで拡散されたわけだな。

 最近敵味方からよくチートを疑われるから何かと思ったけど、どうやらこの動画が伸びたからってのもありそうだ。


「あ~、この試合か」


 動画を見ると、その試合の記憶が蘇ってきた。

 なんか開幕即死しまくるやべー味方がいるなと思っていたけど、どうやらこの人だったようだ。

 試合の途中で、あまりにも強すぎる私のことを“やってる”んじゃないかと疑って、白黒つけるために私の視点で観戦していたようだ。


『ん……? この人強すぎじゃない? プロか誰かのサブ垢?』

『(コメントを見て)この人“使って”ます? ホントかよ。確かめよう。味方すまん! これは検証のために必要なんだ!』

『え! つっよ、反応早すぎ』

『は!? なにそのフリックショット。エイムが吸い付いてるって!』

『やばいやばいやばい! あの状況からクラッチ!? それできるならプロになれるって!』

『……うーん、視点移動は普通だね。見えてないものが見えてるわけじゃなさそう』

『立ち回りとかプリエイムは普通に上位帯って感じの動きだ』

『でもエイムが凄まじいね。なにこれ? スーパープレイ連発してるじゃん。トッププロでも安定してこんなことできないよ』

『マジで反応が早すぎる』

『相手視点だと真正面からの撃ち合いだと勝てる気が1ミリもしなさそう。こ~れ……(言葉を濁す)』

『作りたてアカウントで無名のプレイヤー……あっ(察し)』

『いやいや皆さん、そんな決め付けはよくないですよ。使ってない可能性はありますからね!』

『確たる証拠もなしにチーター呼ばわりするのは良くないですよ! 大人しく運営の沙汰を待ちましょう!』

『……とりあえず通報しとこ』


 実質4v5になった試合をハードキャリーしてチームを勝利に導く私のプレイを背景にあれこれ言われている。

 1試合でフラグムービーが作れそうなシーンの連発だ。

 確かにこれはチートっぽい。


 コメント欄も見ていく。


『こんな実力あったらとっくに表に出てるだろうしCなんやろなぁ』

『ヘッショ率70%www』

『エイム練習しまくってるプロですらHS率30%とかなのに。50%↑もあったら確実にチートだろ』

『ピークの仕方だったりエイムの置き方がWHも使ってそうだな』

『見えてるけど見えない振りしてるんじゃね?』

『トリガーボット×ウォールハックには勝てません』

『エイムあったら勝手に撃ってくれるCかな』

『立ち回りとか視点移動はそれなりに上手いし、アセぐらいで停滞したやつがCに手を出したって印象』

『明らかにチーターなのになんでバレないんだ』

『Cとして100戦以上とランク回してるのにBANされないのおかしいだろ』


 完全にチーター扱いされている。

 配信者本人も言葉にはしていないものの、内心ではそう思っていそうな態度や口調だし。

 何かムカついてきた。

 コメントしちゃお。


『私はチートなんて使ってないですよ。名誉棄損で訴えたいぐらいです。

 というか開幕即死しまくるやべー味方がいるなーと思ったけどこんなことしてたんですね! てっきりトロールだと思って通報しちゃいました』


「我ながらクソコメだなぁ」


 若干頭に血が上って勢いで書いたコメント。

 冷静になれば消した方がいいんだろうけど……まあいいか、そのままにしておこう。

 どうせネットの書き込みなんて便所の落書きみたいなもんだ。

 気にせずさっさと忘れてしまおう。


「まったく、勝手に人をチート扱いして金稼ぎしやがって。名前覚えたからなコイツ」


 ラスティ。

 こいつのせいで私の評判は最悪だ。

 ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって。

 煙草とか吸っちゃってさあ。

 ヤニカスがよ。

 きっと腹の中も真っ黒だろ。

 許せねえ。



***



 ラスティから連絡がきた。


 どうやら私の本人コメントが発見されて、晒されるようにグッドやツリーが伸びた結果、配信者本人の目に触れたようだ。

 メッセージの内容を要約すると、「そこまで言うなら、自宅検証して身の潔白を証明しませんか」とのことだ。


「う~ん、自宅検証かぁ」


 ぶっちゃけ嫌だな。

 赤の他人を家に上げて、パソコンをいじられるのは。

 フォルダとか履歴とかも全部見せなきゃいけないんだろ。

 嫌すぎる。


 それにダンジョン関連の物品があるからそれも片付けないといけないし。

 断るか?


「でもなぁ……」


 ここで断ったら私がチーターだという噂を助長するだけだ。

 きっとまた好き放題言われるんだろうな。


「むかつく~」


 考えるだけでムカムカしてきた。

 特に頭にくるのはSNSや動画で目についたコメントだ。

 何も知らないくせに分かったつもりになって、好き放題言いやがって。

 このまま消えても、私が嫌な気持ちになったままで、奴らを気持ちよくさせるだけ。

 それだけは絶対に嫌だ。


「……形を変えてOKするか」


 私は潔白だと、適当言ってる奴らを黙らせたい。

 「チートなんて使ってない」と、実力で否定してやる。

 そして煽り返そう。

 私は売られた喧嘩は買う主義だ。

 舐めた真似しやがって。

 絶対嫌な気持ちにさせてやる。


 メッセージのやり取りをする。


『オフライン検証は構いませんけど、自宅に赤の他人を招くのは抵抗があります。別の場所ではダメですか』

『別の場所となると、どうしても中途半端な検証になりますね。

 100%白を確定させるためには、普段使っているPCを調べて不正ツール等が入っていないのを確認した上で、いつものパフォーマンスを発揮するのが一番です』


 めんどくさいな。

 そんなことはわかってるつーの。

 こっちは見知らぬ他人に家の中に入って欲しくないんだよ。


『たとえ別の環境でも、普段通りのプレイができればチートを使ってない証明にはなりませんか?』

『では、検証の場であの超人的なAIMを確認できなかった場合、黒認定してもよろしいですか』


「こいつ……疑ってんなー」


 緊張で普段通りの実力が出せなかったとか、そんな言い訳を私がするとでも思っているんだろう。

 馬鹿にしやがって。

 そんなせこい真似しないっての。


『いいですよ。私がブロンズみたいなプレイをしたら笑いものにしてくれて結構です』

『え! 本当に?』

『はい』

『……約束ぶっちするつもりじゃないよね?』

『失礼な。そろそろ本気で怒りますよ』

『ごめんごめん! いやー、まさか受けてくれるとは思わなかったよ。あれが人力ならすごいことだよ。一緒にチートじゃないことを証明しようね!』

『白確定したらちゃんと謝ってくださいよ。今回の件で私はとても不快な思いをしたので』

『もちろん! 白ならね! その時は土下座でもなんでもするよ!』


 ん? 今なんでもするって……この返しはやめとくか。

 でも証拠としてSSしておこう。

 何させてやろうかな。

 今からその時が楽しみだ。


『日時と場所は? こちら東京は行けます。予定も一月ぐらいは空いてます』

『じゃあ都内で。詳しい日時と場所は追って連絡するね』

『了解です』


 こうして、オフライン検証が決まった。

 さて、当日は本気でやるとしますかね。

 みんなの度肝を抜いてやる。




 ―――――


 『弾正セナ』

 レベル7→9



近況ノートに挿絵を載せてます。

AIイラストです


ラスティ(イメージ)

https://kakuyomu.jp/users/setori217/news/16817330664674811654

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