第12話 オフライン検証


 月日が流れて、八月中旬。

 ついにオフライン検証の日がやってきた。


 早朝に起きて日課のゴブリン狩りを済ませた後。

 身支度を整え、新幹線に乗って東京へ。

 こういう時に駅が近いのは便利だ。


 呪いのローブが脱げないので、服をどうするか最後まで悩んだが、結局は開き直ることにした。

 このクソ暑い真夏日の中、ローブを隠すための厚着なんてできない。

 いっそコスプレだと割り切って、武器以外は完全装備で行くことにした。


 装備の効果で少しでも有利にするためだ。

 この検証では、絶対に無様を晒すわけにはいかない。

 やれることは全部やる。

 強い気持ちで臨んでいた。


 なので今日の私の服装は、黒いローブに三角帽子と、まるで魔法使いのような出で立ちだった。

 地味に服の質は良く、安っぽいコスプレ感はない。

 容姿の良さもあってか、かなり注目を集めていた。

 正直、悪い気はしない。

 暑いけど。


 自宅が関東圏なので、1時間後には東京だ。

 席に座り、適当にスマホをいじっていると、あっという間に目的地に着いた。

 駅に降り立ち、待ち合わせ場所のネカフェを目指す。


「ここか」


 ラスティから知らされた会場に到着した。

 そこは、とあるeスポーツカフェ。

 今回はここを貸し切りにして、オフライン検証をする運びとなった。

 ちなみに検証にかかる費用は全てあっち持ちだ。

 何なら交通費まで出すと言われた。


「結構カネかかってそうだなー」


 かなり気前がいい。

 流石大手配信者、金持ちだ。

 中に入ってみると、机にパソコンやモニターが並び、まさにゲーミングという感じの空間だった。

 冷房もきいていて涼しい。


「いた」


 目的の人物はすぐに見つかった。

 赤茶色の髪が特徴的な女性が、スタッフらしき人達と話している。

 顔出ししているので顔はわかる。

 喫煙者なのか、近づくと若干煙草の匂いがした。


「ラスティさん」


 声をかけると、彼女はこちらを向いた。

 画面越しでもわかっていたが、かなりの美人だ。

 可愛いというよりは、綺麗系の顔立ちをしている。

 そんな彼女は、私を見て目を丸くした。


「え、もしかして君が……セナさん?」

「はじめまして、セナです。本日はよろしくお願いします」


 ぺこりと丁寧にお辞儀する。

 正直気に入らない相手だが、理由はどうあれ、私の為に身銭を切って場を整えてくれたのは事実。

 礼儀は尽くしておこう。


「あ、どうも、ラスティです」


 そう返しつつ、彼女はまじまじとこちらを見つめてくる。

 周囲のスタッフらしき人達も私を見てざわついている。


「いやぁ、これは驚いた。セナさんって女の子だったんだね。しかもめっちゃ可愛い!」

「ありがとうございます」

「というかその恰好なに? 何かのコスプレ? 魔法使いみたいだけど」

「服装は気にしないでください。趣味です」

「そういわれても気になるんだけど……まあいっか」


 キャラ濃いわーとか、全然想像と違った、とか呟きながら、ニコニコと笑って右手を差し出してくるラスティ。


「改めて、今日はよろしくね。さっさと検証を終わらせて、皆に白だということを証明してやろう!」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 その右手を、私は握り返した。


「じゃあ早速だけど席について。セッティングして貰える?」

「はい」


 そのまま手を引かれて席に案内される

 私は促されるまま席についた。


「キーボードとマウスは指定の物を用意したよ。あってるよね?」

「はい、問題ないです」


 事前に使用デバイスを聞かれて答えたが、本当に用意してくれたようだ。

 マウスパッドまで同じだ。

 細かいところでも言い訳ができないように、ということだろう。

 椅子の高さや、デバイスの位置、マウス感度、モニターの設定、ゲーム内のキーコンや設定。

 諸々を調整して、いつもプレイしている家の環境にできるだけ近づけていく。


 大体のセッティングを完了した。

 ちなみに装備効果を最大限受けたいとはいえ、手には何もつけていない。

 敏捷と攻撃速度補正が付いたレザーグローブがあるが、革手袋なんてつけていたら指先の感覚が狂う。

 メリットよりもデメリットの方が大きいため、素手の方がいい。


 ウォームアップしようと射撃訓練場でBOT撃ちを始めると、後ろで画面を覗き込んでいた人たちから小さなどよめきが上がった。


「え、うっま」

「すげー、AIMビタビタだ」

「おかしなことは何もしてないよね? ……本物じゃん」


 上手いプレイヤーというのは、準備運動の段階からその片鱗が現れるものだ。

 幾度ものレベルアップで反応速度や器用さといった身体機能も上昇している私は、冗談抜きでエイムに関しては世界一のプレイヤーだろう。

 その規格外のエイムを誇る私のプレイを見て、周囲は驚いているようだ。


 多少いつもと違う環境に違和感はあったが、すぐに慣れた。

 調子もいい。

 うん、問題ない。

 これならいける。


「ラスティさん、準備できました。いつでもいけます」


 セッティングを終えて、後ろで眺めていたラスティに声をかける。

 彼女は感心したような顔でパチパチと拍手した。


「すごい! 感動した! セナさん、あなた本当に本物だったのね!」

「だから言ったでしょう。やってないって」


 どうやら僅かなプレイでも疑いは晴れてきたようだ。

 少し得意になって言う。


「いやー疑ってほんとごめん! 私の目が節穴だったわ!」

「いえ、わかってくれたならいいですよ」


 謝罪するラスティに、気にしてない風に返す。

 ばつの悪そうな顔が見ていて気持ちいい。


「で、この後配信もするんですよね? どうすれば?」

「あ、そうだね。ちょっとマウス貸してくれる?」


 椅子をずらして、言われた通りにマウスを譲る。

 すると彼女は慣れた手つきで配信ソフトを起動して配信準備を整えた。


「後はこれで、配信開始ボタンを押すだけ。こっちが合図したらよろしく」

「わかりました」

「それじゃちょっと待っててね。私も配信してくるから」

「了解です」


 そう言ってラスティは数人のスタッフを伴って離れていく。

 残って私の背中を注視している人もいるが、これは私が怪しげな事をしないか見張るための監視だろう。


 今回のオフライン検証は、私がゲームの垂れ流し配信を行い、ラスティがそれをミラーしてあれこれ言うという形式になっている。

 設置されているウェブカメラによって手元も映されるらしい。

 距離は離れているし、ヘッドセットをつければ周囲の雑音も気にならない。

 特別なことをする必要はない。

 私はただ、いつものようにゲームをすればいいだけだ。


 時間としては2時間程度。

 最初にアップとしてデスマッチを行い、その後はランク戦という流れだ。 


 しばらく待っていると、後ろのスタッフを通して合図が来た。

 よし、やるか。

 私は配信開始のボタンを押した。



***



 とある配信サイト。

 ラスティの配信ページ。

 オフライン状態の配信画面には、既に数千人を超える待機者が、今か今かとストリーミングが始まるのを待ちわびていた。


 :わくわく

 :セナは来るんだろうか

 :完全に黒だと思うけどなぁ

 :あれで白なことある?

 :何が起きてるのかよくわかってないんだけど、これから何が始まるん?

 :経緯 あるプレイヤーがレディ帯で無双しまくる → ラスティさんがランクで遭遇。切り抜き動画が上がる → 余りにも上手すぎて界隈の殆どの人が黒認定、叩きまくりで誹謗中傷する → 疑われたプレイヤー「チートなんてしてない。誹謗中傷で訴える」 → ラスティ「ほなオフライン検証で白黒はっきりつけよう! 白だったら土下座するわ!」←いまここ

 :まとめ感謝

 :なるほどね


 今話題の、チートの疑いがあるプレイヤーのオフライン検証。

 界隈の有名人が主催しているということもあり、その注目度は非常に高かった。


 告知されていた開始時間よりも、少し前。

 突然画面が切り替わり、eスポーツカフェにいるラスティの姿が映し出される。

 ついに配信が始まった。

 すぐにコメントの流れが加速する


 :あ

 :あ!

 :きたああ

 :配信だああ

 :待ってました


「あー、あー、聞こえてるかな? 音量バランスとか大丈夫?」


 :聞こえてる

 :声小さいかも

 :ちょっと声大きくして


「……あー、うー、こんなもん?」


 :ちょうどいい

 :調整ありがとう~

 :いいと思います!


「よし! 問題ないか? ないな! じゃあ改めまして、みんなお待たせ―! それじゃあ、セナ……Sena_dayo_715さんのオフライン検証を始めます!」


 :うおおおおおお

 :キターー!!

 :8888888

 :ぶっちせずちゃんと来たんだ


「あっとその前に、みんなに注意しておくことがある」


 :はい

 :なんでしょう

 :なになに?


「強い言葉は控えるように! 私は自分の発言に責任が取れるからいいけど、有象無象の君たちはきっと責任なんてとれないだろうからね。面倒なことになりたくなければ発言には気を付けましょう!」


 :はーい!

 :それはそう

 :誹謗中傷系は最近厳しいもんね

 :気を付けます


「まあ、この注意喚起は必要ないと思うけどね。アップでBOT撃ちするのを後ろから少し眺めてたけど、あれは絶対使ってぇぇ――」


 :!?

 :どっちw

 :使ってる!?

 :使ってない!?

 :まさかの白!?


「ふふ、どっちだろうねー?、それはご自分の目でお確かめください。ということで検証スタート! セナさんお願いしまーす」


 セナの配信が開始される。

 それをラスティはミラーする。

 ゲーム画面と、カメラを3つ使った様々な方向からの手元の映像のワイプが映し出される。


 :手綺麗

 :白くてほっそ

 :女性の方ぁ!?

 :おててかわいい

 :セナって女だったの?


「そう、さっき顔合わせしてびっくりしたんだけど、セナさん女の子なんだよ。しかもめっちゃ可愛い」


 :ま?

 :まじで!?

 :うおおお

 :ティちゃんとどっちが可愛い?

 :アンチやめてファンになります


「あとー、なぜか魔法使いのコスプレしてた。ほら、あの黒い袖はローブだし、チラチラ移ってる謎の物体はでっかい三角帽子のつばね。ちなめっちゃ似合ってた」


 :wwww

 :なぜコスプレw

 :不思議ちゃんかよ

 :チート=魔法の隠語かな?

 :魔女っ子か……いい


「お、デスマッチ始まったね。皆注目!」


 :うおおおお

 :!?!?!?

 :いきなり超反応でヘッショ抜きまくってるけど

 :そのフリックエイムは冗談だろ

 :えっぐ

 :このAIMは……まさか本物!?

 :まじか


「えー、これでみんなもわかったかな? セナさん、彼女は白です!」


 :うおおおおお

 :これが人力!?!?

 :配信開始5分で白確定は草


「ちなみに私は配信前から分かってた。席について5分でこの神プレイしてたからね。彼女は本物だよ」


 :草

 :嘘でしょ

 :上手すぎて信じられない。これでホントに何も使ってないの?

 :やばすぎる

 :こっそりチート入れてるんじゃね


「チートは絶対使ってないと言い切れるよ。PCもデバイスも全てこっちで用意したものだし、ずっと監視してるけどPCに細工した様子もなかった。本当にただ上手いだけだよ」


 :まじか

 :才能ありすぎでしょ

 :いままでどこに隠れてたんだこんな化け物

 :スタッフが買収された可能性

 :買収は草


「スタッフ買収!? どうやってだよw まー、PCは最後に念入りに調べるから、そこんところは安心して頂戴」


 :はーい

 :あまりにも上手すぎて疑心暗鬼になってるの草

 :まじでうまいなー。

 :1万人に見られながらプレイしてるのに、緊張とかしてないのかな


「緊張は……どうだろう。表面上は落ち着いてるように見えたけど。まあ流石に少なからずは緊張してると思うよ。でも緊張した上でこれなんだと思う。地力が違うんだろうね」


 :すげー

 :どんなに緊張しててもプロと一般人では雲泥の差があるからな。それと同じか

 :キルペースやば

 :あっという間に40キルしそう

 :まだ1回しか死んでないし

 :1位と2位の差が倍以上w

 :周りも結構な猛者っぽいんだけどな


「てか、聞いてよリスナーさん」


 :ん?

 :なに?

 :どうしたの


「正直まーじでやらかした。安易に人を疑ってはいけませんって身に染みたわ。配信前に超高速BOT撃ちを見せられた時、冷や汗だらだらだったもん」


 :wwwwwwww

 :草

 :>二週間前のポスト。ラスティ「セナさんのオフライン検証します! 本人曰く、ブロンズみたいなプレイをしたら黒確定してもいいとのことです! 白だったら全力で土下座して謝ります!」

 :土下座確定だね

 :大人しく土下座しましょうw


「うう、リスナーがいじめるよぉ……」


 :草

 :自業自得

 :どんまい

 :かわいそう

 :あらぬ疑いをかけられたセナさんはもっと可哀想なんだが?

 :それはそう


「土下座するのは確定としてさ……どうやってお詫びしようか迷ってる。とりあえずこの後食事に誘って、寿司でも焼肉でも好きなところに連れてってあげて……あとは欲しいものを聞いて買ってあげるとかでいいのかな?」


 :それでいいと思う

 :いいんじゃないでしょうか

 :誠意は感じる

 :むしろやりすぎじゃね?


「いーや、やりすぎなんてことはないね。むしろこれでも足りないぐらいじゃない? 私のせいでチーターという風評が広まって迷惑かけちゃったわけだし。行動には責任を持たんとね」


 :かっけー

 :さすがです

 :うおおお、有言実行!

 :漢だ

 :僕、回らない寿司が食べたいです

 :高級車買ってー

 :家建ててー


「お前らに買うわけじゃねーよ! 寿司まではいいけど、車に家は流石に限度がある」


 :ですよねー

 :冗談ですやんw

 :どのぐらいまで出せるの

 :もう現金渡しちゃえば?


「ま、その辺は直接話して流れで決めるわ。純粋に応援したいし、お詫びもかねて色々してあげたいしね」


 :いいと思う

 :がんばれー


「それで許してもらえるといいな。……ぶっちゃけ私嫌われてると思うんだよね。対面した時、礼儀正しかったけど顔は全然笑ってなかったし。こっちを見る目が冷たかったよ」


 :草

 :wwwww

 :チートの疑いかけたんだし嫌われるのはしゃーないw

 :き、緊張してた説

 :もともと素っ気ないタイプなのかもしれない

 :ティちゃんなら仲良くなれるよ!


「そうかなぁ。そうだといいなぁ」


 その後もセナは圧倒的なプレイを見せ続けた。

 デスマッチを終えて、ランク戦へ。

 そこでも獅子奮迅の大活躍。

 オフライン検証の場でありながら、チートを疑われる発端となった動画のパフォーマンスと同じか、それ以上の実力を見せつけた。


 気づけば配信の視聴者数は3万を超え、コメント欄は賞賛と驚きの声で溢れていた。


 :これ白ってまじか

 :まーじで上手すぎる

 :これでCじゃないってやべー

 :人力チートや

 :やばい、惚れそう

 :プロがボコボコにされとる

 :本当にこいつ何者だよ。この実力で何で今まで無名だったの?

 :すごすぎて語彙が無くなるわ


「いやー、セナさんマジでうまいね。フィジカル最強なのにプレイングが丁寧で偉すぎる」


 :それな

 :わかる

 :エイムゴリラなのに驕ったところが全くない

 :立ち回りに知性を感じるよね


「そうそれ。エイム強者にありがちな慢心が一切ない。時間の使い方がうまいし、たとえ有利な状況でも先走って1人で撃ち合わずにちゃんと味方を待ったり。隙の無いプレイスタイルで綺麗だわ」


 :わかる。めっちゃ綺麗。不要なリスクを冒さない

 :勝負する時はほぼ勝ってる

 :不利な状況からでも打開するパワーもあるし

 :セナさん、プロになろう!

 :チートみたいなエイムと冷静な立ち回りが合わさって最強に見える


「実際最強じゃない? 冗談抜きで今まで見てきたプレイヤーの中で一番強いよ。今まで何してたのかめっちゃ気になるわ」


 :それな

 :この後インタビューとかあるなら聞いて欲しい

 :反応速度が人間の限界を超えてる

 :何を食べればこんな上手くなれるんだろう

 :エイム良すぎて見てて気持ちいい


 そして試合が終わる。

 圧倒的なキャリースコアでの勝利だった。


「いやーすごく見ごたえのある試合でした。GG!」


 :88888

 :おおおおお

 :これで使ってないってまじ?

 :そこらのチーターよりもよっぽど強いやん


「予定ではもう1試合ほどやってもらうつもりだったけど、実力は十分に証明してもらったし、もういっか。インタビューしに行こう」


 :うおおお

 :謝罪パートキター

 :土下座! 土下座!


 そう言ってラスティはカメラを伴って席を立ち、セナの方へと向かっていく。


 :!?

 :白髪の魔女っ娘がゲームしてるw

 :後ろ姿かわよ

 :セナさん銀髪やん


 一瞬カメラにセナの後ろ姿が映り、コメント欄が盛り上がる。

 セナがラスティ達の接近に気づき、振り返る時にはカメラは視点を下げていた。

 首から下のローブ姿が映し出される。


 :ほっそ

 :かわいい

 :え、なにこの格好wwなんでコスプレしてんのw

 :美少女の雰囲気を感じる


「いやーすごかったです、セナさんお疲れ様!」

「あ、はい。もう終わりですか?」

「うん、実力は十分に見せてもらったからね。これは文句なし。満場一致で白確定です!」


 :うおおおお

 :白だしだああ

 :おめでとう!!!

 :まさかCじゃないとは思わなかった

 :ぶっちゃけまだ信じられない。上手すぎて

 :セナちゃんの声かわいい


「あー、それでですね、セナさん、……疑ってしまい、大変申し訳ございませんでしたーー!!」


 ラスティはおもむろに膝を折って床に座り、そのまま額を床に擦り付ける勢いで頭を下げた。

 土下座の体勢だ。

 自分で言っていたことを有言実行する姿に、コメント欄は大いに沸き立っていた。


 :!?

 :あ

 :謝罪きたー

 :土下座www

 :ほんとにしてるw

 :ガチの土下座で草


「……えー、謝罪だけですかぁ? 最初のメッセージでは白だったらなんでもしてくれるって言ってましたよね? ほら、証拠のやり取り」


 セナはローブの内側をごそごそと漁ると、スマホを取り出してあるスクショを表示させた。

 それを視聴者に見えるようにカメラの前に掲げる。

 それはラスティが「白だったら土下座でも何でもする」と発言した証拠写真だった。


 :wwwww

 :草

 :なんでもするって言ってますねw

 :これは勝てない

 :ん? 今なんでもするって

 :h


「うっ、それはぁ……」

「あはは、冗談ですよ。いいですよ、謝ってくれればそれで」

「ほんと?」

「ええ、疑う気持ちもわかりますから。それでも決め付けたりせず、こうして無実を証明する場所を用意してくださったことに感謝します」

「うう、なんていい子なんだ……! こんな子を疑うなんて、私ってやつは……本当にごめんね」


 :いい子だ……

 :ぐう聖

 :まじ天使

 :惚れる


「ただ、許せないものもありますけど」

「……というと?」


 :あ

 :まずい

 :まさか

 :まだ何かあるのか?


「動画とかSNSで誹謗中傷を書き込んでた奴ですね。あいつらほんと好き勝手言って。許せませんよ」


 :あ

 :そっちか

 :セーフ

 :ラスティさん許される


「だよねー! 許せないよなー! ってか私よりそいつらの方がよっぽと悪いことしてるよね! 見てるかライン超えてた愚か者共! 反省しろよ! 謝罪と賠償を要求する!」


 :wwww

 :急に元気になるやん

 :矛先変えようと必死で草

 :正直絶対チートだと思ってました

 :ごめんなさい

 :反省してますゆるしてください



***



「ふう、疲れた~」


 夜。

 家に帰ってきて、私はすぐに床の上に寝転がった。

 肉体的な疲労はさほどないが、精神的な疲れがある。


 オフライン検証は、無事終了した。

 オフラインの場でいつも通りの実力を発揮した結果、ラスティさんから白認定を貰った。

 そして約束通り土下座された。

 ある程度言いたいことは言ったし、実力も証明された。

 すっきりした気分だ。


 配信も大盛り上がりだったようだ。

 ピーク時には、なんと3万人以上の視聴者がいたらしい。

 多すぎだ。

 どんだけ注目を浴びていたんだ

 帰りの新幹線の中でエゴサしてみたら、手のひら返しがすごかった。

 昨日までは批判一色だったのに、今日はほぼ賞賛一色だ。

 全く単純な奴らだ。


 検証が終わりに、ラスティさんに食事へ誘われた。

 奢ってくれるとのことだった。

 私はそのお誘いを受けた。

 帰宅が遅くなったのはそれが原因だ。


 何を食べたいかと聞かれたので、肉と答えると、高級焼き肉店に連れていかれて、何を頼んでもいいよと言われた。

 太っ腹だった。

 話していて楽しい人だったし、流石有名配信者という感じだった。

 ゲーム配信者なんて、引きこもりゲーマーで常識ない感じかと思ったけどそうでもないようだ。

 気遣いのできる陽キャみたいな、普通にいい人だった。

 今日一日で、ラスティさんへの評価はガラッと変わった。


「久しぶりにこれだけ人と喋ったな」


 というか、この体では初めてか。

 連絡先も交換した。

 初めての知り合いと言える。

 今日はとても充実した一日だった。


「配信か……私もやってみようかな」


 食事の席で、ラスティさんから配信を勧められた。

 私ほどの実力なら、プレイ動画を垂れ流すだけでもそれなりに人は来るはずだと。

 その上、容姿もいいし声もいい。

 伸びようと思えばいくらでも伸ばせる。

 ポテンシャルは十分以上にあると。


 その気があるなら、マイクやオーディオインターフェイス、ウェブカメラなど、お古で良ければ配信機材も譲ってくれるとのことだった。

 人気になればかなり稼げるみたいだし、やってみるのもありか?


「どうせ日課を済ませた後は暇だしね」


 配信付けながらゲームすればいいだけだ。

 それで収入を得られれば、わざわざダンジョンから得たカネを使って、危ない橋を渡らずに済むかもしれないし。


「問題はそんなに私を見てくれる人がいるかどうかだけど……まあやってみないとわからないか」


 とりあえずラスティさんに連絡しよ。

 貰えるものは貰っておこう。

 こういう機材って結構カネがかかるからな。

 大手配信者のお古だし、結構いい物を貰えたりして。


 なんだったらサインでも入れてもらって、そのまま転売したら定価を超えるのでは?

 顔がいいし、アイドル的な人気もありそうだったし。

 いや、流石にそれは失礼か。

 やめておこう。

 そんな僅かな利益で人からの信頼を損なうのは、馬鹿のすることだ。




 ―――――


 『弾正セナ』

 レベル9→12

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

独占ダンジョンのある現代生活 せとり @setori217

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ