第8話 呪い


 しばらく進むと、またしてもゴブリンの群れと遭遇した。

 今度も3体だ。

 前衛が2体なのも先ほどと同じ。

 だがアーチャーの代わりにシャーマンがいる。


 魔法を使ってくる相手だが……まあ大丈夫だろう。

 こいつが使ってくる火の魔法は範囲攻撃だ。

 集団戦では味方を巻き込んでしまい使いにくいだろう。


『ギャギャギャン!』

「お?」


 ゴブリンシャーマンが杖を振って光らせる。

 魔法を放ってくるかと思いきや、その輝きは1体のゴブリンの背中へと吸い込まれていった。

 ぼんやりと光を纏うゴブリンの体。

 どうやら、強化魔法か何かのようだ。

 そんなこともできるのか。

 多芸だな。


『ギャッ!』

『ギ!』


 バフをかけられたゴブリンを先頭に、前衛の2体が突っ込んでくる。


(ふむ……)


 状況を判断する。

 バフの効果はわからない。

 だが、そう極端に強くはならないだろう。

 足の速さはそう変わっていない。

 仲間と足並みを合わせているのかもしれないが。

 とりあえず当たってみるか。


「ふっ!」

『ギギッ!』


 先頭のゴブリンに向かって斬りかかる。

 いつもなら反応が遅れ、力でも押し負けるそれを、そのゴブリンは受けきった。

 しかし、まだ私の方が強い。

 即座に切り返し、もう一度斬りつける。

 初撃の対応で体勢が崩れていたゴブリンは、それを凌ぐことができなかった。


『ギャッ!』


 手傷を受け、たたらを踏むように後退するゴブリン。

 即座に追撃しようと前のめりになる私だが、その間にもう一体の前衛ゴブリンが割り込んできた。

 振るわれる剣をヒーターシールドで受け止めて、追撃を断念。

 もう一体のゴブリンと対峙する。


(ん……こいつもバフを受けたのか。詠唱早いな)


 傷を負った仲間を守るように立つ、もう一体の前衛ゴブリン。

 その体からは薄っすらと魔力のような光が揺らめいていた。

 こいつもシャーマンからの強化魔法を受けたようだ。

 思ったよりも魔法の再使用が早い。


(でもまあ、一体にはそれなりの深手を与えたし、そこまで苦労することは……えっ!?)


 傷を負ったゴブリンに、後方のシャーマンから魔法が飛ぶ。

 どこか癒しを感じさせる神秘的な緑の光だ。

 その光を受けたゴブリンは、苦悶を浮かべていた表情を和らげて、傷を抑えていた手を離す。

 そして立ち上がって剣を構えた。


(お前、ヒールまで使えたのかよ!)

 

 どうやらゴブリンシャーマンは、回復魔法の使い手でもあったようだ。

 めちゃくちゃ多才だ。

 ずるい。

 こっちは魔法なんて1つも使えないのに。


(うぜえ、攻めきれねぇ)


 強化された前衛ゴブリン2体に、シャーマンの回復魔法。

 こいつらが厄介なことこの上ない。


 バフ付きゴブリンは簡単には倒せないし、とどめを刺そうとするともう一体が妨害してくる。

 その間に回復魔法が飛び、負傷していたゴブリンが戦線復帰し、同じことを繰り返す。

 攻めあぐねる状況に、フラストレーションが溜まっていく。

 ゴブリンの癖にカバーの意識高すぎだろ。


 負傷覚悟で無理やりフロントを突破して、ゴブリンシャーマンを仕留める。

 そんな強硬策が頭に浮かぶが……。


(……いや、やめておこう。あいつの魔力が切れたら勝ちだし、焦らなくてもいい)


 冷静な部分がそれを止めた。

 千日手のように思える現状だが、より多くのリソースを使っているのは向こうの方。

 この状況を続けていて、有利なのは私だ。

 無理をする必要はない。

 このまま粘っていれば勝てる。


 逆に、無理をする必要があるのは向こうの方だ。

 このままではじり貧。

 相手に考える頭があるのなら、そう考えて何か仕掛けてきてもおかしくない。

 それを対処できれば、私の勝ちは揺るがない。


 だが、ゴブリン側から何かをしかけてくることはなく。

 やがてシャーマンの魔力が尽きたのか、回復魔法が飛んでこなくなった。


「ようやく魔力切れか?」


 罠ではないかと疑念も生まれるが、シャーマンが肩で息しているのを見ると、疲弊しているのは間違いなさそうだ。

 回復魔法の援護を失った前衛ゴブリン2体を倒し、そのままゴブリンシャーマンの首をはねる。


「ふう……」


 苦戦というほどではないが、かなり時間を取られた。

 10分程度の戦いだったのだろうが、体感では非常に長く感じた。

 久しぶりに戦闘で息が上がり、汗をかいた。


「これだけ苦労してドロップは同じ……あの編成は面倒くさいな」


 ぶつくさ文句を言いながら銀貨を回収して、一旦小休憩をとる。

 手頃な岩に腰を下ろし、背負い袋から水袋を出して水を飲む。


 でもまあ、面白さはある。

 ゴブリンが単独でノコノコ出てくるのを倒すのは効率はよかったが、作業のようで退屈だった。

 群れで出てくるゴブリンは、それなりの歯ごたえと目新しさがあって、倒すのが楽しい。

 久しぶりに戦闘でアドレナリンが出た。

 今日は戦闘が面白い。


「さてと、進むか」


 5分ほど休憩して、探索を再開する。


 再びゴブリンの3体PTと遭遇。

 私は剣と盾を構えて突撃した。



***



「おお? なんだここ。ボス部屋みたいだな」


 未踏エリアの探索を始めて、1時間ほど経っただろうか。

 私の目の前には、大きな石のアーチの扉があった。

 洞窟内で初めて見た人工物だ。

 重厚で厳かな扉からは、どことなくボス部屋の前のような雰囲気が感じられた。


「開ける……のはやめておくか」


 何が起きるかわからないしな。

 もしかしたら閉じ込められるかもしれない。

 ボスからは逃げられないというのは、ゲームではごく普通のことだ。


 ゴブリンの群れとの連戦で、今はそれなりに疲労している。

 少なくとも万全の状態ではない。

 挑むのは後また今度にしよう。

 今はまだその時ではない。


 扉はスルーして、他の道を探索していく。


「ふむ、扉以外は全部行き止まりか」


 洞窟を隅々まで探索した結果。

 ボス部屋らしき扉以外に進めそうな場所はなかった。

 隠し扉があって、それを見逃しているとかなら話は別だが。

 あるかもわからない物を探して、全ての壁を叩いて進むとかやりたくない。

 一先ずその可能性は考えなくていいだろう。


「今日のところは一旦切り上げだな」


 洞窟内のゴブリンは狩り尽くしたようだし、帰って戦利品を確認しよう。

 それから、この先の攻略のための計画を立てるとしますか。


「おー、結構稼いだなぁ」


 ホームに戻ってきて、ショップの台座の上で銀貨を数える。

 全部で50枚あった。

 今日1日で50体もゴブリンを倒したのか。

 そう考えると凄いな。

 大漁だ。


 それに、追加でドロップアイテムもある。

 魔法使いが着ていそうな黒いローブだ。

 いちいち鑑定するのに銀貨5枚も払うのは馬鹿らしい。

 とりあえず着てみて、能力を検証してみよう。


「んー……よくわかんねー」


 体を動かしたり剣を振ったり、いろいろ試してみるが、結論としてはよくわからなかった。

 体感できるほどの効果を感じない。

 最初と比べたら、自分もレベルアップして基礎能力が上がっているから、細かい差がわからなくなっているのかもしれない。

 駄目だこりゃ。

 大人しく鑑定した方が早いか。


「……ん!? ちょっと待て。なんだこれ、脱げない!?」


 用は済んだのでローブを脱ごうとしたら、なぜか脱げなかった。

 ローブを脱ごうとすると、手から力が抜けてしまう。

 まるで私自身が脱ぐのを拒否しているかのように。

 なんだこれは。


「もしかして……」


 嫌な予感がしてローブを鑑定する。

 私自身が台座に登れば、強引にローブを指定できた。

 銀貨5枚……いや、10枚出す。

 詳細鑑定で詳しい情報を知ろう。


 『呪われたローブ(Tier1)』

 体力+1

 〈根比べエンデュランス・ゲーム

 呪われている

 魔力-3


 〈根比べエンデュランス・ゲーム

 アクティブスキル。

 発動すると、一時的に自身の減少体力比例のシールドを得て、筋力と敏捷が増加する。


 呪われている。

 この装備は外せない。

 


 や、やっぱり呪われてるー!?

 マジか。

 本当に呪いの装備は存在したのか。

 考えすぎかなと思ってたんだけど。

 でも鑑定のあるゲームだし、そりゃあるか。

 警戒しきれなかったなぁ。

 マイバッドだ。


「……でも、なんか強くね? このローブ」


 体力+1に、根比べエンデュランス・ゲームとかいうスキル。

 デメリットは魔力-3と、装備を外せないということ。

 魔法使いにとってはゴミなんだろうけど、戦士である自分にとってはかなり有用だ。


 自身の減少体力比例のシールドを得て、筋力と敏捷が増加する。

 実際の効果や発動コストにもよるけど、シンプルに強そうなことが書いてある。


「うーん……こうか?」


 装備を身につけることで、そのスキルの発動の仕方はなんとなくわかった。

 ローブに意識を向けて、「発動」を念じる。

 すると、体から何かの力が吸い取られ、ローブに宿った特殊能力が発動する感覚があった。


「お、おー……?」


 私の体が一瞬光った。

 それ以外、特に見た目に変化はない。

 体は少しだけ軽くなった気がする。

 確かに筋力と敏捷が増した、か?

 シールドについては……試した方が早いか。


「えいっ、おお?」


 軽く自分の体を殴ってみる。

 すると、衝撃が吸収されたように、拳にも殴った個所にも痛みは感じなかった。

 さらに力を込めて何度か試していたら、効果が消えた。

 時間切れか、シールドの耐久値が無くなったのか。


 いずれにせよ、効果としては結構弱いな。

 体力がマックスだからか?

 追い詰められたときに使う、逆転カウンタースキルか。


 再発動しようと試したが、どうやら再使用するにはしばらく時間がかかるようだ。

 気軽に使えるようなスキルではないらしい。

 いざという時の切り札として運用すべきだろう。


「呪いに関しては……ま、しょうがないか」


 呪い以外に関しては優秀そうだし、一旦このままにしておこう。

 というか解呪する方法がわからないしそうするしかない。

 大して影響がないことを祈る。




 ―――――


 『弾正セナ』

 レベル4→レベル6


 『ショートソード』

 魔法攻撃力+1


 『ヒーターシールド』

 スタミナ回復+1


 『メイジハット』

 筋力+1

 敏捷+1


 『呪われたローブ(Tier1)』

 体力+1

 〈根比べエンデュランス・ゲーム

 呪われている

 魔力-3


 『レザーレギンス』

 体力+1

 物理防御+1


 『レザーグローブ(Tier1)』

 敏捷+1

 攻撃速度+1


 『レザーブーツ』

 運+1


 『ゴブリンの冒険証(Tier1)』

 全能力+1

 〈持久力スタミナ


 『戦士の指輪(Tier2)』

 筋力+2

 〈不屈の闘志ダイ・ハード


 『背負い袋』

 ・水袋、ロープ、ナイフ、火口箱、松明3、薬草2、軟膏、包帯、鎮痛剤。

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