第6話 新商品



 ホームに戻ってきて、手に入れたペンダントを鑑定する。

 これで銀貨5枚……。

 ちょっと高いが仕方ない。


 『ゴブリンの冒険証(Tier1)』

 全能力+1

 〈持久力スタミナ

 ショップに新商品入荷


「おおー!?」


 表示された鑑定結果に驚きの声を上げる。

 全能力プラス1!?

 強すぎだろ。

 こんな効果もあるんだな。

 持久力スタミナも、よくわからないけどスタミナ関係ならいい感じだな。


「つーかこれって、詳細鑑定をしないとスキルの効果はわからない感じなのか」


 面倒な。


 実は鑑定には2種類あった。

 『鑑定』と『詳細鑑定』

 値段は鑑定が銀貨5枚で、詳細鑑定がその倍だ。


 違いがわからないし、鑑定にそんなにカネをかけたくなかったので安い方を使っていた。

 余裕が出来たら、戦士の指輪も含めて鑑定したいところだ。


「……で、ショップに新商品入荷って何だ?」


 字面通りなら、ショップに新商品が入荷されたみたいだけど。

 商品の一覧を確認する。


「おお、Tier1のアイテムが売りに出されてる!」


 今までTier0のアイテムしか売り物になかったショップに、Tier1のアイテムが商品として並んでいた。


「1つ銀貨10枚か。……たっけー」


 装備を見ると、どれも一律銀貨10枚で売られていた。

 Tier0の物と比べると10倍の価格だ。

 日本円にして5万円の装備。

 高すぎだ。

 ぼったくりかよ。。


「あ、レザーグローブも売ってる。性能は……やっぱり店売りアイテムはドロップ品には劣る感じかな?」


 『レザーグローブ(Tier1)』

 いずれかの能力値+1


 ショップで売っているレザーグローブの性能はこうだ。

 これで10銀貨。

 特殊効果は、私が持っているドロップ品のレザーグローブの方が1つ多い。


 いつでも買える店売り品と、ドロップ品が同じだったら店売りで装備を揃えればいいじゃんとなるからな。

 それにゲームの進行度によってショップの内容も充実していく感じだ。

 ハクスラ要素もあるみたいだし。

 いいね。


 ゲームマスターはわかってるな。

 純粋なゲーム部分に関しては、かなりセンスを感じる。

 これが本当にただのゲームだったらリスペクトできるんだけどな。

 記憶を消されて訳も分からず攻略している現状は不本意だ。

 まるでデスゲームみたいで、勘弁してほしい。


「お、回復薬も増えてる」


 ショップを物色していると回復アイテムのラインナップも増えていることに気づいた。

 包帯、軟膏、鎮痛剤。

 チュートリアルで拾ったアイテムたちだ。

 その効果の高さは身をもって知っている。

 それぞれ1つぐらいは常備しておきたい。


 鎮痛剤はまだ錠剤が4錠残っているが、軟膏と包帯は使い切った。

 この二つは買っておきたいが……。


「これも銀貨10枚か。たっかいなー」


 5万円であの効果と考えれば、破格の値段かもしれないけど。

 収入面で考えると、かなり高価だ。

 ゴブリンを10体狩らないといけない訳だし。

 しかも消耗品だし。


「これ、怪我したら大赤字だな。注意しないと」


 でもまあ、怪我した時の保険と考えれば必要経費か。

 危険なことをする以上、気を付けていても事故は起こる。

 少しでも死のリスクを減らすことを考えたら、回復アイテムは絶対に所持しておくべき必需品だろう。


「よし、買っておくか」


 軟膏を1つ購入する。

 包帯は買えない。

 鑑定にカネを使ってしまったので、2つ買うにはギリギリ足りなかった。

 これで銀貨10枚の出費。

 痛いな。


「……薬草ってどの程度の効果があるんだろうな」


 『薬草』

 この薬草を食べると、自然治癒量が高まる。


 初期のショップで銀貨1枚で売られていた回復アイテム、薬草。

 冒険者セットにも入っていて、今も2つ所持している。

 試す機会もなかったので使っていなかったが、効果のほどによってはこっちも使っていくべきだろう。

 金欠の私にとって、安いは正義だ。


「そういえば、ゴブリンを20体ぐらい狩ったけどドロップアイテムは出なかったな。結構レアなのか」


 初回の探索でレザーグローブが手に入ったのは運がよかったのかな。

 ビギナーズラックってやつだな。


「えーと、今回の稼ぎは銀貨5枚か……」


 でも探索は進んだし、ゴブリンの冒険証も手に入ったし、小銭稼ぎもできたし。

 まあ悪くない。

 というか1~2時間程度で2.5万円の稼ぎと考えれば、破格の時給だ。

 使っただけで、元の稼ぎはその4倍だし。

 たった2時間弱で10万円。

 いや、よく考えると相当やばいな。


 最初はどうなることかと思ったけど、これなら生活は余裕そうだ。

 ダンジョンがうますぎる。

 ゴブリンが金に見えてきた。

 醜悪な見た目のゴブリンが好きになってきたかもしれない。



***



 一旦休憩を挟み探索を再開したが、倒したゴブリンはまだ湧いていなかった。

 かといって、これ以上奥に進むのは少し怖い。

 そろそろゴブリンが群れて行動していてもおかしくなさそうだし。

 罠があったりするかもしれない。

 未知の領域は何があるかわからない。


 ショップが更新されたことで、状況は変わった。

 金を貯めれば装備を更新して強くなれるし、回復アイテムはかなり高価だということも判明した。

 レベルアップという現象もあるみたいだし。


 ここは現在探索済みのエリアを毎日周回して、地道に金策とレベル上げをする。

 準備が整ったら、未知の探索をする

 それが安牌な行動だ。


 若干まどろこしい部分もあるが、命がかかってるわけだし。

 安全マージンの確保は大事だ。


 今日の探索でもそれは感じた。

 今日を無事に終えることができたものの、ぶっちゃけ割と紙一重だったし。

 何かが違っていたら大怪我していてもおかしくなかった。

 ゴブリンアーチャーにゴブリンシャーマン。

 初見の敵との手探りの戦闘。


 それは今度、何度も行うことになるだろう。

 ゲームなら負けてもやり直すことができるが、リアルに命がかかっている以上、敗北は死に直結する。

 安全を期すなら、リスク管理は絶対に必要だ。


「わかってるんだけど。なんか挑戦したくなっちゃうんだよな」


 死ぬかもしれない。

 その緊張感がある戦闘は、最高にひりついて、正直楽しくもあった。

 不安も恐怖も勿論ある。

 だが、死と隣り合わせの緊張感を乗り越えた瞬間。

 あの解放感と高揚感がたまらない。

 クセになりそうだ。


 自分のことを、割とクールなキャラだと思っていたけど。

 実は、かなりギャンブラーな嗜好をもっているらしい。

 賭け事やガチャはしないように気を付けよう。

 はまっちゃいそうで怖い。



***



「暇だ」


 夜になった。

 ちょくちょくダンジョンの様子を見ているが、まだゴブリンは湧いてこない。

 リポップ時間長すぎだろ。

 MMOのネームドボス並みの湧きの遅さだぞ。


 まあ、あまりすぐに湧いてこられると、探索の難易度が爆上がりするし、このぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 リポップが遅いがゆえに、ゴブリンがおいしくされているのかもしれないしな。

 湧きが早いとドロップや経験値もナーフされそうだから、やっぱり今のままがいいか。


 ダンジョンに行けないと、やることがない。

 金がないから遊ぶこともできないし、パソコンもないからゲームもできない。

 出来ることといえば、スマホをいじるぐらいだ。


 半日ゴロゴロしてただけ。

 正直、時間を無駄にした感がある。

 でもまあ、12時間経ってもゴブリンがリポップしないという情報を得れたのは収穫か。

 どうやら湧き周期はほぼ丸1日らしい。


 もしかしたら24時間よりも短いかもしれないけど、そこまで効率的にやる必要もない。

 大変だし。

 とりあえず1日1回、狩りをすればいいや。

 のんびり自分のペースでやろう。


 半日待ちぼうけしたおかげで、明日からの予定が立てやすくなった。


「ふあぁ……」


 あくびが出る。

 眠くなってきた。

 もう一度ダンジョンに行く気でいたから不完全燃焼気味ではあるけど、流石に寝よう。

 もう日付けも変わりそうだしな。


 こうして、私のダンジョン探索2日目が終わった。





 ―――――



 『弾正セナ』

 レベル3→レベル4


 『ショートソード(Tier0)』

 『ヒーターシールド(Tier0)』

 『冒険者のバンダナ(Tier0)』

 『冒険者の服(Tier0)』

 『冒険者のズボン(Tier0)』

 『冒険者のブーツ(Tier0)』


 『レザーグローブ(Tier1)』

 敏捷+1

 攻撃速度+1


 『ゴブリンの冒険証(Tier1)』

 全能力+1

 〈持久力スタミナ


 『戦士の指輪(Tier2)』

 筋力+2

 〈不屈の闘志ダイ・ハード


 『背負い袋』

 ・水袋、ロープ、ナイフ、火口箱、松明3本、薬草2つ、軟膏、鎮痛剤


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