ソクラテスの前頭葉

 前頭葉とは理性や判断力をつかさどる大脳の一部である。ソクラテスとは、いうまでもなく古代ギリシャの哲学者だ。

 誰が見ても無罪なはずなのに死刑がきまったソクラテスは、悪法もまた法なりとの言葉を遺して処刑された。

 本作では、古代ギリシャの数千年後にあたる現代日本が舞台となる。そして、題材となるのはそのものズバリ、老害対策法なる法律だ。

 まあ次から次へと死ぬわ死ぬわ。最初はいかにもステレオタイプな老害がやり玉に挙げられたが、次第にこの法律のずさんさや出鱈目さが明らかにされていく。

 本来、先進国での刑罰は……少なくとも建前上は……犯罪者の更正を促すという一面を備えている。

 しかし、老害対策法にそんな結構なキャッチフレーズはない。とにかく老害(と、ネット投票による多数決で認定された人間)はブッ殺す。手段と目的が逆転しているどころの騒ぎではない。いや、手段でも目的でもない。単に独裁者が自分の思いつきで実行させた法律であり、独裁者の体面を守るためだけに実行されているにすぎない。

 で、そんなめちゃくちゃな状況に人は耐えられない。法律に基づいて告発された人間だけでなく、実務役や関係者もまたどんどん死んでいく。かかわった人間が病むか死ぬかその両方かという点についてだけ公平公正なシロモノだ。

 最終的にはこの法律は発案者にふさわしい結末を遂げるのだが、ようやくトンネルを抜け出た気分になれる。

 ところで、隣の席の老人二人がやたらに馬鹿でかい声でお喋りしていてうんざりだ。この店の常連客らしいが、あの法律は二人以上を同時に訴えても構わないのだろうか? これから市役所に問い合わせよう。

 詳細本作。

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