第9話 スズラン
「……他に今。王都で流行っている植物。花はないかしら?」
そう尋ねると、庭師は「そうですね」と言いつつチラッと横を見る。
「基本的にここでは雪の降る時以外はその季節に合ったモノを植える様にしていますが、実は『スズラン』が流行っているとか」
「スズラン? ここには植えられているのかしら?」
「いいえ。今回の『チューリップ』はシュヴァイツ家の土に合ったので植えてましたが『スズラン』は土との相性が悪い様で……」
「じゃあ、植えられているのは『チューリップ』だけって事なのね?」
「はい。ですが『スズラン』は人気らしいです」
「そうなの」
「ええ、何でも見た目がとても可愛らしいのだとか」
「そうなの」
私はその『スズラン』を学校の図書室の本でイラストを見た事がある。
しかし、その当時はまだ『スズラン』事態が珍しい事もあり、それ以上の事は知らない。
ただ、イラストを見た感想は庭師の言う通り可愛らしい見た目をしているという事だけだった。
でも、そのイラストを見た女子生徒を中心に人気となっていたのを覚えている。
「どうかされましたか?」
「い、いえ。でも、そんなに人気なのね」
「はい。そもそも流行になった理由が……確か王子が男爵令嬢に求婚する際に持参したからだとか……」
「……そう」
基本的に王族に嫁ぐ事が出来る令嬢は侯爵以上と厳格な決まりがあった。
でも、実はここ数年で「考えは古い!」と言われる様になり、今では「自由な恋愛」に世間の目が向けられていたのも事実だ。
そして、そんな「自由」に目覚め始めた世の流れに押される様に起きたのが、あの卒業パーティーの一件である。
正直、私と同じように婚約を破棄された彼女たちとは一切面識はなかったし、彼女たちがどうしているのかも知らないし分からない。
でも、今の話を聞く限り「王子がいよいよあの令嬢に結婚の申し込みをした」というのはどうやら事実の様だ。
「じゃあ、近いうちに結婚式があるのかしらね」
ちょっとトゲのある言い方になってしまったかも知れない……と思っていると、庭師が「いやぁ、それは難しいかと」と言葉を濁す。
「何?」
「なんでも陛下と王妃様がその結婚を了承していないらしいのです」
「え? じゃあ……王子の独断で?」
「ええ。まぁ、それも仕方ないとは思っていますけどね。何せ男との噂に事欠かない方じゃないですか。お相手の方」
そう言う庭師は少し呆れ気味だ。
「そ、それは……」
正直私からは何も言えないけど、フォローをするつもりはない。むしろ、事実である。
「ちなみに、皮肉も込めた意味で『数多の男性をとりこに出来る様な女性になれる』というスズランの香水まで出ているらしいです」
「へ、へぇ……」
確か『スズラン』の花言葉は「純愛」だったはずだけど、どうやら本当に「純愛」でなければ人はなかなか受け入れてくれない様だ。
「それにしても、今の話を聞く限り『スズラン』の花自体もかなり売れてそうね」
「そうですね。それは商人からよく聞きます」
そう言いつつ庭師は「それがどうされましたか?」と不思議そうにしていたけれど、私は「いいえ。気にしないで」と言いながらもこの話に少しだけ引っ掛かりを覚えた。
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