第12話 毒


「――な、何よ。コレ」


 そして、次の日には早速王都へと出向き『スズラン』だけでなく『スズランの香水』を購入した。


 庭師は「王都で流行している」と聞いていたけれど、実際に『スズランの香水』を販売しているのは一つのお店だけだった。


 しかし滞在時間があまり長くは取れず、実際のところ私が行ったのは王都の中でも比較的有名な通りのみ。ひょっとしたらもっと別の通りでも売られていたのかも知れない。


 そして実はその香水を買った時の店員が「こちら美容にも効果がありまして……」とスズランの香りがするという『化粧水』というモノも一緒に勧めてきた。


 その時はただ単純に「商売熱心な人」と思ってあまり深く考えていなかったけど……。


「どう?」

「ちょっと……高いかな」

「あら、そう?」


 やはり有名な通りにあるお店というだけあってお店の中には値段が高くて買えないという人もいた。


 でも、こればっかりは仕方がないと思う。


 それくらい『スズラン』の香水や化粧水はお店の商品の中でも群を抜いて高かったのだから……。


「あ、でも。スズランも他の花よりは高いけど、これよりは安いから……」

「そっか!」


 なんて女性たちが話をしているのがふと耳に入った。


「……」


 ただここで一つだけ言いたいのは「決して聞き耳を立てていたワケではない」という事である。むしろ、こういった会話はお店のあちこちから聞こえていた。


 それこそ、貴族とか平民とか身分なんて関係なく様々な女性が……。


「お待たせ致しました」

「あ、どうも」


 そんな女性たちの会話を気にしつつ、帰宅してすぐに私は購入『スズラン』を調べたのである――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 そしてその結果がまさか……。


「どうかされましたか。お嬢様」


 ルカは私と一緒に片付けなどをしてくれていたけれど、私が突然固まって動かなくなった事に気が付き、不思議そうに尋ねる。


「この『スズラン』って言う花。調べてみたら根や花に有毒成分があるみたい」

「え」


 ただ、お店で購入した香水の方は本当にスズランの香りがするだけで有毒成分は出なかった。


 多分、ちゃんとした製法で作られているのだろう。でも、商品として販売しているのだから当たり前と言えば当たり前の話ではあるのだけれど……。


「もし、何かしらの拍子に口の中に入ってしまったら……相当危険ね」

「そ、そんなに……」


 具体的にどれくらい危険なのか……というと、誤って口に含んだ場合。吐き気だけでなく、嘔吐を引き起こす可能性があり、もし何も知らずに多量に摂取した場合。呼吸停止……最悪の場合。死に至ってしまうくらいだ。


 私が研究しているのを見た事があるルカは、私の「相当危険」という言葉に顔を青ざめさせてしまっている。


 でも、この結果は紛れもない事実だ。そして、ふと思い出されるのはお店での女性たちの会話。


「ねぇルカ」

「は、はい」


「あそこのお店の商品って、どれも高かった……わよね? 特に『スズラン』を使った物は」

「……はい。さすが王都の有名通りにお店を構えるだけの事はあると」


 元公爵家の私ですらそう思うのだ。ルカもそう感じていてもおかしくない。


「じゃあ仮に購入出来ないとなった場合。購入を諦めるとして……」

「?」


「何か他の方法で香水や化粧水を手に入れられるとしたら?」

「そ、それって……」


 そう、ないのであれば……買えないのであれば「作ればいい」と考える人がいてもおかしくない話だ。


「きっと同じ様に考えた人はいたはず……」

「たっ、確かにあの店の……特に『スズラン』の商品は貴族でも買えない方がいらっしゃるくらい高価なモノでした。ですが……」


「仮に高い値段を払わなくて手に入るのであれば、みんなそっちに行くでしょうね。特に平民は」

「……」


 貴族ですら手を出しにくいとなれば、平民は特にそう考えるかも知れない。


「ただ……」


 一つひっかかるのはお店にいた女性たちがすぐに「自分たちで作る」という事を決めたという事だ。


 香水にしろ化粧水と呼ばれる物にしろ、そんな普通の人には簡単に作れる代物ではないはず……なんて思っていると……。


「珍しく出かけたと思ったら」

「――ラ、ライオネル……様」


 振り返ると、そこには部屋の入口にシュヴァイツ様が腕組みをしながら立っていた――。

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