第4話 突然の報告
元々学園に通っていた頃は、ずっと植物について研究をしていた。
私が通っていた学園は「国立」で、言ってしまえば国が運営している学校だったのだが、基本的に自分のやりたい事を自由に研究出来た。
ただ、それが出来るのは三年制の内の最後の一年間だけ。
たったその一年だけなのだけど、幼い頃は「研究者」を夢見ていたくらいだから、その一年間はとても楽しかった。
それこそ、婚約者の存在を忘れてしまうほどに……。
でも、そうなってしまうのも仕方ないと思って欲しい。
だって、私の夢は絶対に叶わないと思っていた。なぜなら、私は本当であれば宰相の妻になるはずだったのだから。
「なるほどね。確かにそうだね」
そもそも私が通っていた学園は一年間に二回あるテストで学園側が指定した一定の成績を修めないと退学させられてしまう。
基本的に余程の事がなければ退学の心配はないのだけど……あの男爵令嬢はいつもギリギリで、それを男性たちがフォローをしていた。
「……」
あ、思い出したらなんかイライラしてきた。
「ふっ」
そんな私に対し、なぜか小さく笑うライオネルを不思議そうに見ると……。
「ああ。ごめんごめん。実はね、君が学生時代に書いた論文を一度見た事があってね。それで僕は君の事を少し知っていたからさ」
「そう……でしたか」
確かに私は学生時代、教師の薦めで論文を書いた事があり、その出来は教師曰く「なかなか良かった」とは聞いていたけど……。
「……」
「どうかしたかい?」
「あ、いえ……すみません」
「?」
でも、エリオットは私が評価されるのが気に食わなかったのか「女のくせに……」というセリフを吐き、ただでさえ冷え切っていた関係がそこからさらに彼との溝が深くなった様に感じる。
まぁ今となってはただの「思い出」でしかないのだが。
「……」
そんな私の様子を見ていたシュヴァイツ様は突然「よし!」と言って立ち上がった。
「?」
「今日は一日ここの案内をして私とゆっくりとお茶をしよう」
「え」
「おや、何か都合が悪いのかな?」
「い、いえ。そうではなく……」
「じゃあ良いよね? これから僕たちは長い人生を共に歩むというのはお互いを知らなすぎるし。小さいとは言え、一か月後には式を挙げる予定だから。その打ち合わせもしなくてはね」
「……え。式……ですか?」
「え? うん」
「えっと……失礼ですが、誰のでしょうか?」
「僕と君。確かに書類を提出して形式上では僕たちは夫婦であるけど、やっぱりちゃんと結婚式をしないとね」
「……」
昔、どこかの書で「寝耳に水」という言葉を知っている。まさしく今の様な事を言うのだろうか……。
なんて思っていると、メイドのルカはシュヴァイツ様の言葉に大きく「うんうん」と頷いている。
「え、でもいいのですか? こんな――」
婚約を破棄された私と……なんてさすがに言葉には出さなかったけれど、シュヴァイツ様は……。
「気にしなくていいよ。僕が君としたいんだ」
そう言って優しく微笑んだ。
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