第15話 幸せ


 結果的に、エリシアの証言の手紙と私の検証結果を踏まえて再度被害者の身辺調査などを行った結果。お父様と本の作製に関わった人たちはみんな逮捕された……のが二週間ほど前の話――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「とてもおキレイです。これからはお嬢様ではなく、奥様とお呼びしますね」

「……あなた。ちょっと楽しんでいるでしょ」


 なんて言うと、ルカは「まさか! 私は嬉しいのです」とまるで「心外だ」とでも言いたそうな表情で答える。


 本来であればもっと早く式を挙げられる予定だったけれど、結果として我が家には長男も養子もいなかった。その為、我が公爵家はなくなる事になり、それらの手続きなどで随分と遅くなってしまった。


 結果だけ見れば「エリシアがかわいそう」と思うかも知れないけれど、どうやらエリシアは既に学園で将来を誓った相手を見つけていたらしい。


「アリシアお姉様の結婚式に来られるなんて、とっても嬉しいです!」


 そんなワケで、エリシアは「お父様」という障害がなくなり、とてものびのびと過ごせているらしく、今日もどことなくテンションが高い。


 ちなみにお相手の両親とは既に挨拶も済ませ、今回の一件も「エリシアちゃんは何も悪くないもの」と今回の一件についても知っている様だ。


「それにしてお、まさか既に相手を見つけていたなんてね」

「お父様には内緒で。あの感じだととても許してくれそうになくて……」


 それに関しては同感だ。


 しかも、相手は貴族でも侯爵家だと言う。それらを踏まえて考えても……きっとお父様は許してくれなかっただろう。


 私が知らない内にエリシアも随分とたくましくなったものだ。私が心配する必要がないほどに。


「私はただの平民とになっちゃったけど、それでもいいって彼も彼の両親も言ってくれてて」

「そう、それは良かったわ」


 そんな優しい彼氏のおかげでエリシアはあの家で生活出来ている様だ。


「今はまだ婚約中ですけど、学園を卒業したらすぐにでも結婚する予定」

「ふふ。楽しみにしておくわね」


 ちなみに、事の発端となった王子の求婚は……まぁ、一応は受け入れられた……というべきだろうか。


 結果的にご令嬢も殿下も……二人共王族でも貴族でもなくなってしまった。


 そして、あの卒業パーティーの一件に関わっていた貴族の男性たちももれなく全員除籍処分をされたらしい……と、シュヴァイツ様からこの件が一通り片付いた後に教えてもらった。


 ちなみに、私と同じく婚約破棄された女性たちは……なんと全員別の貴族男性と結婚されたそうだ。


 本当に、私とは比べものにならないほど強い方たちである。


『元々、殿下の行動は陛下たちに筒抜け状態だったからね。それならばて陛下も手を打っていたワケだよ』


 そうシュヴァイツ様は裏話を教えてくれたけど、お父様にとっては渡りに船だっただろう。


 きっと「嫁にもらってくれる相手がいるのであれば、くれてやる。やっと邪魔者がいなくなる」と思っていたに違いないのだから。


 それを考えると、多分。陛下はそんなお父様の考えなど全て知っていてシュヴァイツ様をお父様に紹介したのかも知れない。


 なんて末恐ろしいお方だろう。


「でもいいの? お姉様」

「ん?」


「今回の一件。お姉様の力も大きかったと思いますけど……」

「ああ。いいのよ」


 別にこの一件に貢献したからといって、そんな名声が欲しかったワケではない。


 確かに事件が解決して欲しいという気持ちはあったけど、それ以上の何かが欲しかったというワケではない。


 それに、今回の一件で色々と分かった事がある。それが一番の収穫だったワケで……。


「エリシア。私ね、自分が思っていた以上に愛されていたみたい」


 そう笑顔で答えると、エリシアは「そっか」と安心した様な表情を見せる。私がエリシアを心配していた様に、エリシアも私の事を心配してくれていたみたいだとこの時になって気が付いた。


「?」


 そんな時、ふいにノックをする音が聞こえた。


「あ、今開けます」


 ルカが扉を開けたと共に入って来たシュヴァイツ様はいつも以上にビシッと決まっていて……正直格好良すぎて落ち着かない。


「準備はいいかい?」

「ええ、もちろん」


 でも、この人が自分の旦那様だと思うと……誇らしい。なんて思いつつ、差し出された彼の手を取り、私は彼と共に式に望んだ――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 そんな結婚式から数週間後――。


 今回の一件でシュヴァイツ様は事件解決に大きく貢献したという事で「侯爵」の位になった。


 実はエリシアが言っていた通り私にも褒美の話が来ていたのだけど、それは辞退して代わりにライオネルの褒美を良くしてもらうように伝えたのだ。


 その結果。彼の貴族の位が上がった……というワケである。


 でも、シュヴァイツ様本人はあまり気にしていないらしく「君と一緒なら、位なんて何でも良い」だなんて平然と言ってのけた。


 それにまた赤面してしまったのワケだけど……でも、こうしてまた穏やかな日々が戻ってきて一つだけ言えるのは……。


「ライオネル」

「ん?」


「私。あなたと結婚出来て、ここに来られて幸せよ」


 なんて、いつものお返しとばかりに言うと、彼は顔を真っ赤にして天を仰いだ。


「――どうしたんだい。急に……しかも名前で呼ぶなんて」

「そう……ね」


 いつもであればこんな事は言わない。ましてや名前で呼んだ事すら今までなかった。


「心境の変化……とでも言えばいいのかしら。私、最初は歓迎されてないんじゃないかって思っていたの。でも、それは違ったんだって今回の一件でようやく気づけたから……改めて……ね」


 そう、自分が気が付いてなかっただけで私はとうの昔に受け入れられていた。


「だから、ライオネル。ありがとう。これからもよろしくね」


 もう一度そう言って微笑みかけて手を差し出すと……ライオネルは「勘弁してよ」と言いつつ「こちらこそ」と顔を真っ赤にしながら私の手を優しく握ったのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼は「毒伯爵」と呼ばれているけど、全然そんな事ありません! 黒い猫 @kuroineko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ