第14話 手紙
「それで、本当に分かったのかい?」
「あ、はい。今、王都で流行っている『スズラン』という植物ですけど……」
私はたった今出た検証結果をシュヴァイツ様に差し出した。
「これは?」
「先ほど行った検証の結果です。この検査薬に入れて有毒成分が検出されれば色が変化するのですが……」
「へぇ?」
「結果はこの様になりました」
そう言って差した先にあるのは見事に色の変わった検査薬。
「これで分かったのは『スズラン』の花粉、実。根には強い有毒成分があるという事。そして、これらを多量に摂取すると……死に至ります」
「死に至る……ね」
私はシュヴァイツ様の言葉に小さく頷いて同意する。
「――なるほど。これで合点がいった」
そう言ってライオネルは「うんうん」と一人頷く。
「なっ、何がでしょう?」
この一連の事件に関する事……というのは何となく分かる。しかし「何が」という部分が見えて来ない。
「ああ。実は数日前に一通の手紙が届いて」
シュヴァイツ様はそう言って胸ポケットから一通の手紙を取り出し私に差し出す。
「?」
その手紙を見ていると、シュヴァイツ様は私にその手紙の中を見る様に促した。
「……」
でも、正直な話。私に手紙を出してくれるような相手に心当たりはない。強いて言えば……妹のエリシアくらいだろうけど……。
ただ、この手紙を持っていたのはシュヴァイツ様だ。
つまり、この手紙の届け先はシュヴァイツ様という事になり、私に対して送られてきたものではない。
それならば「なぜ?」と不思議に思いつつ中を見てみると……。
「え、コレ……。エリシア?」
中身を確認してすぐにこの手紙がエリシアによるモノだという事に気が付いた。その証拠に、シュヴァイツ様は私の小さな呟きに反応するかの様に小さく頷いていた。
「……」
ただ、封筒は差出人の名前も、それこそ届ける相手の名前も何も書かれてはいない。
でも、中の手紙には確かにエリシアの名前があり、この少し幼さの残る特徴的な文字は間違いなくエリシアによるモノだった。
「最初、この封筒をもらった時は半信半疑だった。でも、たった今。君のリアクションを見て分かった。この手紙は本物なんだって」
「え、でも……どうして?」
どうして手紙がシュヴァイツ様の手元にあるのだろうか。
「簡単に言うと、君の妹君は自分の父親……つまり君の父が王太子殿下の求婚による『スズラン』の流行を利用して一儲けしようとしている事に気が付いたんだろう。でも、それが『スズランの栽培』などの領民の雇用に繋がれば……と最初は彼女もそう考えて見守る事にした。しかし……」
「しかし?」
「基本的に『流行』というのはそう長くは続かないモノだ。そこで次に着目したのが女性の美意識を利用したモノを作るという事。そしてそれが……自分で香水などを作る指南書の様な物の作製だった」
お父様は昔は確かに家族のため、ひいては自分の領民のため国のために尽力してきた立派な人だった。
でも、お母様が亡くなってからのお父様は……すっかり変わってしまった様だ。
「……」
あの聡明なお父様は一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「この手紙にはそれを作製する様に指示したのが自分の父であるという事実だけだった。ただ、その本が出てから不審死が続いていたのもまた事実。この一連の事件の原因としては一番怪しくはあったけど……」
「肝心の『スズラン』に毒性があるのか分からなかった……という事ね」
そう言うと、ライオネルは「ああ」と申し訳なさそうに頷く。
「どうしたものかと悩んでいたら、手紙の最後の追伸に『お姉様ならきっと……』って書いてあってね。ただ、最初は何の事か分からなかった。自分の姉を案じた事を書いたのかも知れなかったし、でもふと君が学生時代に書いた論文を思い出してひょっとしたら……と思って」
「……そういう事」
何となく分かってはいたものの、やっぱり私はこの二人に上手い事のせられていたみたいだった――。
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