魔剣召喚 心を……

 



 俺は泣いてるエマを優しくそっと抱き寄せた。


「俺は……、俺は君がいたから強くなれた。


 いつも側に君がいてくれたから頑張る事が出来た。


 世界がこんな風に変わろうと、俺は君と過ごした時間を忘れない。


 君が魔剣に取り込まれ、誰の声も届かなくなる前に、


 本当は伝えたい言葉がたくさんあった」


 声を殺しむせび泣きながら、必死でしがみつく彼女の手だけが暖かかった。


「俺は君を守りたかった。


 君が悲しみを抱くなら、俺の心に移せばいい、


 君が痛みにもがくなら、俺の心に渡せばいい、


 君を不安にさせるどんな事も、


 君を苦しめるどんな事にも、


 俺は喜んで耐えられる。


 俺は君が好きなんだ


 さよならの前に


 君が愛しいと伝えたかった」


 エマの指に力が入り、顔を上げると零れる涙で濡れた瞳が俺を見つめていた。


「なんで、馬鹿だよ、ばか……


 わたし、ありがとうってちゃんと言えない


 わたしのせいでこんな事になっているのに……


 こんな最後の最後で……、


 わたしだって、わたしだって、エトが好き。


 こんなお別れしたくない、こんなさよならしたくない、


 生きて、エトは生きて!」


「……無茶を言う、俺は君と語れるこのひと時の為になら、全てを失う事も厭わない」


 激しく凄惨な真紅の業火が、さらに猛き蒼い絶炎へと変わり俺達を包み込んだ。


 全身が燃え、見えない剛力に引き千切られる様だ。


 そして、もう別れの時なんだ。


 見上げれば、荒れ狂っていた天が澄み渡り、美しい夜空が蘇っていた。


 綺麗だ。


 広大な夜空に小さくとも無限の希望の様に煌めく多くの星々。


 天蓋に大きく浮かぶのは、銀とオレンジの穏やかで懐かしい二つの月。


 俺はエマを引き寄せた。


「さよならだ


 でも泣かないでくれ。


 君が好きだ


 愛でも恋でも足りないくらい、君が愛おしい、


 だから、二人で笑って逝こう」


 魔剣葬送が終わろうとしている。


「……笑えだなんて、エトこそ無茶を言ってるから……」


 そう微笑んだ彼女の美しい顔を、俺は決して忘れない。




 残酷な禁忌でこの身が朽ちようと、


 俺はこの心を手放さない。


 絶対にエマを忘れる事はしない。


 儚さなど認めない。


 幸せはかどうかなんて関係ない。


 出来なかった事、手に入れられなかった事、はがゆくも悔やむ事


 俺は零れ落ちる悲しみなど決して見つめない。


 無駄にしない、諦めない、痛みに負けない、


 ここにあるかけがえない気持ちを、


 ここにある大切な想いを、


 俺はこの心を絶対に手放しはしない。




 君が好きなんだ、エマ。



                               

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魔剣召喚 ーはないちもんめー 福山典雅 @matoifujino

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