夜の灯りを求めて
蒸気と歯車の地下世界は暗闇に包まれる。空は常に曇り空だけど、ここでも朝と夜は存在していて、片付け屋の仕事を終えた私は作業報告に中央街へ出かけていた。周辺は真っ暗でも、稼働している溶鉱炉や真っ白な蒸気のおかげで街はオレンジ色の明るさに包まれている。ここは自給自足である以外に厳しい取り締まりは無いから、夜に働きたい人達によって街が眠る事はない。
帰り道、私は今日の稼ぎをポケットに忍ばせながら街を散策していた。上の世界と同様に広がる屋台に並べられているのは、エネルギー源となる魔石や処理して安全に食べれるようにした廃棄食品と辛うじて栽培した野菜や、品種改良して飼養した家畜肉。
「うーん、新しいゴーグルでも買おうかなあ」
閉鎖された地下世界の楽しみなんて、買い物や集めたガラクタを活用した物作りしかない。今使っているゴーグルも自分で組み立てたものだけど、正直目視と拡大鏡を行き来してるくらいには不便な代物なので、出来れば上から回収された質のいい物にしたい所。
「ジュリちゃん! お疲れ様ぁ〜」
商品散策していると、陽気な青年声が私を呼び止めた。寄ってきたのはこの近くで部品屋をやっているキジトラ猫獣人のグレッグ、妻子持ちの賑やかな人柄で気軽に接する事ができる唯一の人。
「仕事上がりか〜い?」
「うん、今帰るとこなの」
「今日のガラクタ雨は結構大当たりだったみたいでさぁ、廃品回収メインの片付け屋から街に良い物が仕入れられてるよ」
「そうなんだ。確かに、たくさん降ってたからね……その分、私たちの収穫はイマイチで」
「はは、そっかぁ。じゃあウチの部品、買う余裕ない感じかぁ〜」
「暫くは片付け屋の仕事一本でいくから、また落ち着いたら商品見させてね」
街中でワイワイ話していると、グレッグはちょいちょいと手招きをしてきた。他に聞かれたくない話なのか、私は耳を近づける。
「ジュリちゃん、お願いというか相談があるんだけどいいかな?」
「どうしたの、改まって」
「実はウチに手提げ式の
「依頼?」
「ああ。夜に作業してる奴らが、手元が見えるような物を欲しがってるんだ。でも僕は、部品に詳しいだけで設計は専門じゃなくてさ……報酬山分けするから、手伝ってくれないかな?」
「うーん」
興味深い話だけど、少し躊躇った。話を聞く限り、依頼主が作って欲しいのはコンパクトな照明器具という事だけど——地下世界だと使える光源材料も限られているから正直難しい。ここでは主に、夜中は火の魔石を皿に置いて持ち歩いたり机に置いたりするのが主流だけどそれじゃダメなのかな。
「いつも通り、火の魔石を使えばいいんじゃないの?」
「僕もそう思うんだけどね、燃え移ったりして危ないのと、魔石を転売する輩がいるらしくて」
「こんな場所でも、そういう事する人がいるなんて……」
「まあ、働き者が楽を覚えると堕落するのはあっという間ってワケさ。とにかく、再発防止の為にも新しい発明がそろそろ欲しいって感じだね」
「んー……魔石以外で灯りを作る、かぁ……」
私は口元に手を添えて考える。火以外で光を生み出す発明……設計に携わってきた人間としては、ちょっと加勢したいけど難しいなあ。この地下世界に降ってくる自然エネルギーが『火』と『水』だけである理由は、上の世界では一番無駄遣いされているから。そのせいで使い切らずに、こうして地下に堕ちてくる——こっちとしては助かるけど、いつか後悔する時が来ると思う。
「流石のジュリちゃんでも、厳しいかなあ?」
「んー……、地の底では技術に限界があるから、なんとも言えない。一度考えさせてもらっていい?」
「もちろん。急ぎの依頼じゃないからね、もし名案浮かんだら教えてよ」
グレッグはまたねと手を振ると、自分の店に戻っていった。私は一度街角に出て、歯車と蒸気で動く街と行き来する人々を眺めてみる。
「これ以上の発展は無いって、断言せざるを得ない場所で作る
うむむと腕を組んだ。すごく作ってみたい。もし実現したらとても便利なアイテムになる事は間違い無いよね、製作意欲が湧いてきた私は急いで家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます