可能で不可能
翌日のガラクタ雨落下地点。昼下がりの曇り空からは、絶え間無く
「あれ? ジュリ、ムトーはどうしたんだ?」
そこにニブルスが袋いっぱいの
「ムトーは昨日から魔石切れで動かなくなってね」
「マジかあ。じゃあ、しばらく仕事は一人?」
「そうなるかな。だから今日のメインは、
「大変だな……、困った事があったらストークに頼れよ、助けになるからさ」
「ふふ、ありがと」
ここに堕ちた人は、みんな境遇が似てるのもあって助け合い精神が特に大きい。ストークの子供は親から捨てられたという心の傷を共有して育つから、他人思いの性格が強く形成されていく——反面、自己主張は激しくなるからグループ内での口喧嘩は多いらしいけど。
「ところで、漁りって事は何か目的の物でもあるのか?」
「ん〜……実は、火の魔石を使わない照明機械の発明を進めているんだけど」
「えぇッ、んなもん地下で作れるのか⁉︎」
「色々設計組んではいるけど……やっぱり難しくて。何か閃けたらなって、今日は色々な物を拾ってみてる」
私は一旦寄せ集めた残骸や部品を、ニブルスに見せてみる。まず考えているものの一つとして、『火を燃やし続ける』タイプの照明機械だ。魔力であっても密封した所では火は燃え続ける事が出来ないのと、魔石自体を光源に使えないのが課題かな。
「とりあえず
「ローソクか……ここじゃ滅多に堕ちてこない代物だよな、なんとかなるのか?」
「上から落ちてくるガラクタの中には機械の残骸がよく混ざってるでしょ。装置ってね、基本的に41種類の鉱物が色々組み合わさって出来ているの」
「へー」
「普通ならここにある粗大
ニブルスは目を点にして分かってるような反応してるけど、多分理解してない。難しい話は置いておいて、今ここにいる残骸を集めればなんとか蝋燭を一から作る事は出来る。問題は生産面でも、エネルギー面でも継続供給があまりにも困難である事。
「でも手間が多くて現実的じゃないから……蝋燭案は多分ダメかなぁ」
「んー……じゃあ、
「あれも原理は蝋燭と一緒なのと、自然材料が少ない地下世界だと再現するのはちょっと難しいかも。やっぱり発熱体をなんとかこう……いやでも、それを可能にするエネルギーがこの地下世界には無いしぃ!」
私はわぁあと頭を抱える。理論上可能なものはいくらでも思い浮かぶのに、塵箱の底では条件を揃えられなくて、不可能になっているのが本ッッッッッ当にもどかしい。
「まぁ、大変そうなのは伝わったよ……」
「結局、火を何かしらの方法で燃やし続けるしかなさそうで。上の世界なら発光体とか放射光とか……色々あるのになぁ」
「俺は物心ついた時から地下だから、上の事はよく分からねぇけど。ジュリなら作れると思うよ」
「一応稼ぎに関わってくるから、なんとか完成させたい所だけどね」
近くの瓦礫に腰を下ろして、ふぅと息を吐く。集めた瓦礫を凝視して、良い装置の図式や構想を頭で練るけど、上手く形にならない。火の魔石を使わない時点で難しいのは分かっていたけど。
「なあなあ、ジュリ。あのオッサンまたやってるぞ」
深く考えている所に何かに気付いたニブルスが顎で方向を示したので、そっちを見てみると瓦礫を高く積み上げる事で出来上がった妙な形のタワーが視界に入る。ガラクタ落下地点の隅にある崩れそうな建物の下で、大柄の男の人が頑丈な機械の残骸を背負ってよじ登り始めた。
「懲りないよなぁ、あの人もさ」
「スパイクさん……」
私はあの人の事をよく知っている。片付け屋やストークの間では有名な上の世界に戻りたがってる人だ。あんな風にたった一人で瓦礫を集めては地道に積み上げて雲の先に行こうとしてるけど、横のニブルスが呆れている様にスパイクさんがやろうとしている事は無駄だと、地下の住人の誰もが思ってる。
噂でしかあの人の事を知らないけど、冤罪で地下に堕とされて家族と生き別れた背景があるみたい。再会する為にああして頑張っているのは尊敬するけど、私もあの方法で上の世界に戻れるとはとても思えない。
「あれじゃあ何千、何百万日かかるか分かんねぇよ。それに雲を抜けた先がどうなってるかも、分からねぇのにさ」
「ここは風の魔法が堕ちてこないから、飛行手段もないからね。それでも……もう一度会いたいんだよ、家族に」
「気持ちは分かるけどよ。諦めが悪いのもどうかと思うわ、俺は」
ここに堕ちた殆どの人が、地下での暮らしを受け止めているし、罪を犯した私なんて尚更上に戻りたくない——でもスパイクさんのように、なんとしても這い上がろうとする人も、この世界にはいるんだ。
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