あの頃と、今と

 結局今日は何も進展無く、夜を迎えた。家に帰っても照明器具の発明作業の手は休めずに、歯車を組んだ仮の装置をカラカラカラと手動で回す。とりあえず昨日考えた設計動力を確認してみてるけど、実験の時点では良い感じ——でも実用に繋がるかっていうと正直微妙だなあ。魔石を使わないという点はクリア出来ても、燃やし続けるのが難しい。


「ふ————ッ……」


 深く息を吐いてリラックスした。昨日からずっと発明案を出してて、脳が休まってない。設計自体は簡単なのに必要な物が揃わないのは不服過ぎるよ、今だけ上の世界に行きたい。

 集中出来なくなったから一度席を外して、下の階に向かう。薄暗い隅の椅子ではムトーが動かないまま座っている、私はそんな旦那の隣に椅子を持って隣に座った。


「はぁ……全然、ダメ。進捗悪い」


 冷たくてゴツゴツしてるムトーの肩に顔を預けた。話しかけても返事して貰えないけど、側にいてくれるだけで心は休まる。それに、もう一度動かす為に稼がないといけないのは働く動機付けにもなってるし。だから今日の片付け屋の仕事も、閃きを掴む為のゴミ漁りも一人で頑張れた。


「家族にもう一度……会う、為か」


 ふと、ガラクタ落下地点にいつもいるスパイクさんの事を思い出した。やるだけ無駄と周りから言われているし、私もあれが正しい方法とは思えないけど——冤罪で家族と会えなくなるって、可哀想だよね。

 私は工学分野の人間だし、研究に没頭して誰とも関わってきてないから、元の世界に思い入れが全然無い。もしムトーと離れ離れにされる事があったら、あんな風に必死になるのかな。


「ムトーは、上でどんな事をしてきたの?」


 ふと返答の無い質問を投げかける。蒸気機械兵マキナの設計図を書いたのは私で、ライカのように自分で手掛けた個体は知り尽くしているけど、ムトーの事は全然分からない。聞いても話してくれなかったし、回路を覗いたり指輪を見ても廃棄前の手掛かりは残っていなかった。


「機械と発明家が夫婦なんて聞いたら、上の人達はどんな顔をするんだろうね」


 フフと、笑みが溢れる。さっきから独り言と考え事ばかりで可笑しくなっちゃう。上の世界にいた頃も機械と友達の様に接してて周りからは気持ち悪がられてたっけ、そんな価値観も人助けが出来る自立型装置が出来たら変えられると思ったんだけどな——全く、上手くいかなかった。

 いつから、蒸気機械兵マキナなんて兵隊みたいな呼び方されちゃったんだろう。どうして、破壊の道具にされちゃったんだろう。なんで、酷い使われ方をされちゃったんだろう。


「……」


 ムトーの腕にしがみ付いて静かに涙を流す。機械は完璧だったけど、上手くいかなかった。第二の人生である今も、上手くいかなくなってる。不安で、不安で、気持ちが挫けそう。


「頑張るから……、もう、間違えたりしないから」


 もう一度ムトーを動かす事を心の支えにして、今は集中するしかない。ここでは蒸気機械兵マキナは誰も傷付けないし、理不尽に壊さない。ちゃんと人助けをする機械になってる。それに、ムトーは私が直せばずっと側にいてくれる。ちょっと落ち込んだけど、やっぱり旦那の存在は冷たくて、ガシャリとしていて、安心する。


「また明日ね、ムトー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る