起きないひらめき

「……」


 昼は片付け屋、夜は遅くまで照明装置の発明。思わずスパイクさんに話しかけてしまった日の設計と実験は不思議と集中出来た。火の魔石が放つ僅かな光を頼りに、私は資料と部品を行き来しながら装置の作成に没頭している。


「んー……、やっぱり上手くいかないや」


 数日経つけど、照明装置の完成に近付いてる気配が全然しない。ガラクタから原材料抽出して蝋燭一本作った所で報酬に見合わないし、火の魔石を使わずに炎を絶やさないやり方も未だに成立出来ないし。本当にどうしたらいいんだろう。


「あぁ〜、もうダメだぁ〜」


 全身で背伸びして、一旦作業を投げ出す。灯りを作るだけでこんなに梃子摺てこずるなんて——私は机の目の前にあるガラスの無い窓から、夜の街を見た。溶鉱炉の橙色はここまで眩しく見えるし、深夜でもこんなに明るいんだから作業場に照明なんていらないでしょ、と投げやりな気持ちになってきた。分かってます、分かってます、工場で問題になってる火の魔石の悪用対策の為なのは。


 ため息を吐いた私は、結局今日も下の階にいるムトーの所に向かっていた。行き詰まると旦那に甘えちゃうのは嫁の性ってものなのかな、まずは一階に降りてすぐに軽くかぶっている埃を払って、渇いた布で拭いてあげる。

 次に全身の整備。動かないとはいえ朝も夜もこれは欠かさない、胴体の装甲を外して内部にある回路や可動域に問題が無いかしっかり確認して、関節も鈍らないように適度に動かす。


「うん、これでよし」


 いつ動いてもいいように、内側も外側も綺麗にしてあげないとね。ここまで尽くした所で隣に椅子を持ってきて、早速ムトーに愚痴をぶつける。


「もうさぁ、火の魔石を動力にしない照明装置とか無茶振りにも程があるって! 本ッッ当にむりむりむり——ッ!」


 私の手が痛まない程度に、ムトーをポカポカ叩く。動いてる時にもこういう事するけど、流石パートナーだけあって素直に受け入れてくれる——機械でも過度な暴力は良くないのは脳の片隅にあるよ、ちゃんと。


「何枚も設計図書いてさぁ、色々な装置を試しに作ったけど上手くいかないよ! 捨てられた物だけで、どうやって灯りを作ればいいの——ッ!」


 くわぁあと不満を吐いた後は、今日あった事を話していく。全部独り言とか、相手は動かないとか返事が無いとか関係ない、隣にいるのは私の旦那さんなんだから。


「今日はね、あのスパイクさんと初めて話したの。顔に迫力があって、目を合わせるだけで動けなくなっちゃった」


 あえてムトーの顔を見た。停止してるから下を向いてるけど、表情変化が無い所はスパイクさんと似てるかも。こっちは機械だけど。


「でも噂通り、家族の為に頑張ってる人だった。根は優しい所も私には伝わったよ。……どうか、報われて欲しいな」


 私はムトーの顔をコンコン叩く。スパイクさんのあんな姿見たら、動かないと分かっていてもやっぱり何か言って欲しくて。横顔を静かに見てしまう。


「どうせ、起きないか」


 光の無い目に対して、冗談混じりに笑った。何気ない独り言を添えた瞬間に、私の中にある思考が浮かんで——次第にひらめきへと変わった。ガタッと立ち上がり、脱力したムトーの顔を両手で持ち上げてジッと見る。


「ちょっと待って……もしかして」


 アイデアを逃さないように、思考をフル回転させる。ずっと『火』に振り回されて気付けなかった。これだ、これだったら地下世界でも作れる。条件は揃ってる、供給問題も解決する、火の魔石も必要ない、素材も手に入る、これなら。これだったら。


「これだよ——ッ! ありがとムトーッ!」


 はしゃいでムトーの頭をガシャガシャ動かした。行き詰まっていた照明装置の発明がやっと確立した。私はバタバタ二階に駆け上がって、設計図の作成に取り掛かった。

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