光で光を作る

 結局、夜は設計に没頭して一睡も出来なかった。あの閃きから照明装置の設計もほぼ完成に近づける事が出来たから、試作品を抱えて私は急ぎ足でグレッグの元に向かう。

 地下世界の工場は人々によって夜も朝も動き続けて、騒音と蒸気が絶えず街を駆け巡っている。陽の光が決して差すことの無い曇り空の下、私が抱える装置はそんな世界に新しい明かりを生み出してくれる——かもしれない。


「グレッグ! グレッグいる⁉︎」


 急ぎ足で部品屋に到着した私は、扉を開けて勢い任せに名前を呼んだ。時間的には朝だから、ちょっと相手に迷惑かもしれない。でも、でやっと完成した発明品を早く教えたくて仕方なかった。強引な事もあったのか、店の奥からグレッグがなんだなんだと顔を覗かせる。


「おはようジュリちゃん。どうしたの、随分早いね」

「ごめんね、突然押しかけて。照明装置の試作品が出来上がったから持ってきたの!」

「え。アレ相談したのって一昨日くらいだよね……もう、試作まで進めたの⁉︎」


 仕事の速さに驚くグレッグの前に、私は抱えた照明装置の発明品を置いた。大きさにすると丁度片手に持てるくらいで、金属枠の中心にある素材を装着し透明な囲いを取り付けた加熱機やエネルギータンクの無いシンプルなもの。地下世界の基本動力となる蒸気機関、そして魔法基盤も不使用だ。

 

「へえ……これが新しい照明装置かぁ。上の世界にある大国が使う、発熱型信号機に似ているね」

「形だけはね。でもこれは中身は全然違う作りなんだ、ちょっと火の魔石貸してもらっていい?」


 グレッグは店にある、宝石サイズの魔石を私に手渡してくれた。火の魔石にカツンと衝撃を与えると熱が発生し始めるので、それを不燃性の板に置いて暫く待つと、光源となる火がボウッと燃え上がり始めた。


「この装置は、近くの明かりをエネルギーとして蓄光する仕組みになっててね」

「なるほど、中心にあるのは蓄光料を含有している素材なのか。これなら火の魔石を使わないね」

「依頼したのが溶鉱炉がある工場なら、常に強発光に晒されてるはずだし、十分実用出来ると思うの」

「発光強度も申し分ないし、暗い手元を照らすには十分だ! でも、よく地下世界で超高輝度の素材が手に入ったね?」

「これは——蒸気機械兵マキナの眼球部分に、使われてるものなの」


 目に光がないムトーを見て、閃いたのがこれ。蒸気機械兵マキナの目は、周りの明暗に合わせて光の加減が変わる仕組みだけど、これも蓄光の原理を用いてる。今回はムトーの片目を少し借りて、より光が集まるように透過する囲いと、常に回転するようちょっとした歯車動力装置を設計した。


「まさかの蒸気機械兵マキナの目かぁ。ここに堕ちた奴は、基本同一個体の修理や中身のエネルギーを再利用されるからね〜! こんな用途で使おうなんて、まず思わないよ」

「これなら半永久に使えるし良いと思うんだけど、どうかなグレッグ」

「いやいや、単純だけどすごいよ。これなら、工場の奴らも導入してくれると思う!」


 グレッグは期待通りの発明品が完成した事に、深い深い感謝を示してくれた。良かった、一時はどうなる事かと思ったけどこうして形に出来て。その代わり、ムトーの目を片っぽ使う事になっちゃうけど——ここの世界に堕ちてくる機械の残骸があれば、何かの形で作れる可能性もあるかもだし。


「助かったよ、ジュリちゃん〜!」

「ううん、いいよこれくらい」

「あッ、そうだそうだ。蒸気機械兵マキナといえば部品が、僕のところにも来てるんだ。良かったら持って帰りなよ」

「え? 蒸気機械兵マキナの?」

「ジュリちゃんの所にも一体、半壊した蒸気機械兵マキナがいるじゃん? 片付け屋の中でも最新の残骸は人気商品だからね。報酬ついでに、ほら」


 店の隅にある大きな棚を開けようとするグレッグ。実はムトーと私が夫婦仲である事は地下世界の知り合いに対して、誰一人打ち明けてられていない。上の世界にいた時の負い目もちょっとあるのかな、蒸気機械兵マキナの設計者である事もムトーの中にある感情の謎を解明する為に添い遂げてる事も、隠してる。

 早速グレッグは仕入れた部品を見せてくれたけど、一目見ただけで分かってしまった。これはあの日、片付け屋に破壊されたライカの残骸。細かく分解されてしまって、原形を留めなくなっても断言できるよ——これはライカで間違いない。


「残念ながら、顔や手足の部分が無いんだけど。目玉があれば、もう一個ジュリに照明装置を作って欲しかったけどなぁ〜」

「……。じゃあ、部品見させてもらうね」

「どうぞどうぞ〜」


 私はそこに散乱している蒸気機械兵マキナの部品を一つ一つ手に取る。それだけで組み立てた頃の事を思い出す、完成する事に胸を躍らせて期待の毎日で物作りが本当に楽しくて。記憶の欠片が混ざる残骸の中から、小さな歯車を見つけた。


「じゃあ、この歯車一個貰うね」

「え。遠慮せずにもっと持ってきなよ。明日には他の片付け屋や工場員が買い取っちゃうよ?」

「いいの。ありがと、グレッグ」


 私はなんとなく浮かべた笑顔で、グレッグにお礼を返す。その歯車を握りしめて改めて思った、私はこの世界で新しい物作りをしていきたいと。絶対無駄にならないように、末長く大切にしてもらえるように。人のためになる、発明ハンドメイドを。

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