歯車で動く約束
「——おはよう、ムトー」
私の声にガチャリと愛しい鋼が反応した。照明器具の発明で得た報酬で動力魔石を街で揃えて、再稼働。ムトーがエネルギー切れで停止してから、5日後の昼の事である。
「ジュリ」
軽く顔を上げて名前を呼んでくれた。うん、動作に問題はないし、認識・理解も止まる前と変わらない。ムトーは椅子に座ったまま辺りを見回しているので、私は歩み寄って顔を近付けた。
「どう? 身体の調子は」
「左目が、ぼやけて見える」
「そっか。代用部品で出来る限り近付けたんだけどな……暫く不便かけるかも、ごめんね」
「ジュリが謝る必要はない」
ムトーの左目は、ガラクタ雨の残骸から取り繕った自作の部品。元々のに比べて、蓄光料も少ないし見た目も乳白色になっちゃったけど、これが今出来る精一杯だ。照明装置を作るために、身体の一部を使う事になっちゃったから、他の手足も合わせて追い追い修理してあげないと。
「止まっていたのか、何日も」
「うん。でも大丈夫だよ、仕事と生活に何も問題無かったから」
「だが、一時的にジュリを一人にした。守ると約束したのに、不甲斐ない」
普通の自立型機械とは違う言い回しに、安心感に加えてときめきが内側から沁み渡る。指示待ちで行動パターンも決まっている
「気にしなくていいよ。家にいてくれるだけでも心強いから」
「動かなくなる予測ができないのは、重大な欠陥だ」
「それより、久々に肩をマッサージして欲しいな。この数日、慣れない事したから疲れてるの」
「分かった」
落ち込む素振りをチラつかせる機械も命令には従う。私が椅子に座って背を向けると、ムトーはガシャンと立ち上がって唯一動く右手を使って首の辺りを丁寧にほぐしてくれる。んん〜、このひんやりとした冷たさと特殊鋼の曲線部分でいい感じにこった所を刺激してくれるのが本当に気持ちいい。
「あのさムトー。私ね、片付け屋と一緒に新しい仕事を始めようと思ってるの」
「そうなのかい」
「うん。ガラクタを使った
私は事前に作った貼り紙を広げて、後ろにいるムトーに見せた。地下世界に堕ちる
「必要なもの、お作り致します。って宣伝文句で街に貼り紙しようかなって」
「面白そうな試みだね、ジュリ」
「でしょ〜。協力してくれるよね?」
「もちろんだ」
機械のムトーが面白そうに感じてくれてるのは嬉しいな。旦那の理解を得た所で、私はポケットから小さな歯車を出した。それを糸状に伸ばした金属で括り付けると、後ろにいるムトーの首にかけてあげた。
「ジュリ、これはなんだい」
「ん? 約束のお守りみたいなものだよ」
ムトーはかつてライカの一部だった歯車に右手で触れるけど、こちらの言ってる事が分かっているようで分かってないみたいで適切な返事がなかなか出てこない様子。そんな旦那に私はスッと抱き付いた。
「今度こそ、人助けしようね。ムトー」
「頑張ろう、ジュリ」
心安らぐ返事をして、貧相な右腕で頭を撫でて貰えた。やっぱりムトーって不思議だ。私が設計した
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