贈り物
りゅうちゃん
第1話
まさか、決勝卓で人間が俺一人とはな。
男は、卓につき、無機質な3つの機械をみて大きくため息をついた。
ここは、ベイサイドの最高級カジノホテル最上階。 エントランスから一番近いスロットですら、庶民の給料1か月分くらいはあっという間に擦ってしまう。入り口から離れるほど、階層が上がるほど、さらにレートが高く行く。 最上階のフロアーでは、サラリーマンの生涯年収程度では、一勝負も出来ない。 一晩で企業の権利が飛び交うような場所だ。 ここにいる人間達は、フォーブスに載るような大富豪。 決して表には顔を出せないが、彼らの数倍の富を持つもの。 そして、かれらに嬲られ、喰い物にされる成り上がりの金持ちたち。
通常であれば、複数のゲームが興じられているが、今宵行われるギャンブルは麻雀のみ、しかも、今は、目の前にある一台の雀卓のみ。 あとは全て観戦者。彼らもゲームの勝敗に天文学的な金額を掛けている。
今宵のイベントは機械対人間がテーマあり、機械は全てハウス側に所属している。莫大な優勝賞金も、機械が勝てばハウスに入ることになる。 かと言ってハウスとしてはてら銭で十分な利益を得ており、あえて優勝する必要は無い。 だが、この舞台は、スポンサーでもある某機械メーカーのプレゼンの場でもある。 世界最高水準のAIを搭載した機械をもって、人間を待ち受けている。 いや、待ち受けているというのは誤りか、人間に挑んでいると言ったほうが正しい。 この麻雀大会においては、機械が優勝したことは無いのだから。 今回が三回目の大会。 そして、昨年の優勝者は俺だ。
チェス、将棋、囲碁と人間が長年研鑽してきた知的戦略ゲームは、AIの圧倒的な強さにより、競技としては成り立たなくなってしまった。今は人々は趣味として細々と楽しむ程度。運の要素が強いと言われるカードゲーム、ポーカーやブラックジャックのトランプ、こいこいやおいちょかぶの様な花札ですら、機械に勝てず、バカラ、ルーレット、大小も、機械が圧勝するようになっってしまった。そして、最後に残ったのが、この麻雀である。このゲームは知的要素も高いはずだが、経験や能力、才能が必ずしも勝敗に結びつくわけではない。昨日ルールを覚えた人間が、プロに勝ったり、勝ち続けた人間がいきなり勝てなくなったり。しかし、運だけ決まるものではない。だからこそ、皆こぞって、この博奕の泥沼にはまっていく。そしてそれが、強者と弱者で表されるのだ。そんな不安定ななかでも、圧倒的な強者、伝説と呼ばれた博奕打ちたちがいた。終戦後の混乱期、昭和の高度成長期、バブルで狂った平成とまるで綺羅星の様な伝説的な博奕打ちが生まれては死んでいった。
どんな圧倒的な強者ですら、弱肉強食のこの世界で常に勝ち続けることは難しく、非業の最後を迎えた。
時代は令和になり、非合法の賭場は激減したが、生き残った数少ない賭場は、海千山千の雀ゴロどもを集め、まるで蟲毒のように喰いあっていた。その中でも圧倒的な強さで神話と呼ばれていた男がいた。曰く、彼が負けて帰ったところはみたことは無い。曰く、六巡目以降で振り込む事は無い。曰く、彼の人生の中で、トップを取れなかったのは数回のみ。曰く、彼は手の中で牌を変えることが出来ると。
神話、今世紀最後の伝説の博奕打ち。表舞台に出ることは無かったので、存在すら疑われる、まさに神話と呼ばれた男。そして俺はその神話を引き継ぐもの。
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