第9話

 そう、おれも牌が見えている。さすがに始めの2局はまったくだが、東場が終わればほぼ8割、半荘でほぼすべて。奴らのように機械学習ではない。感覚的なものだから、説明が難しいが、俺は音が色で見える。牌も牌の柄として見れるが、色として見れる。百三十六牌全て違った色で。牌の色と、洗牌される音で色が混ざり合い、そして別れ、山に色彩をもたらす。だから、開かれてない牌も、前々局のどの山のどの位置にあったかは分かっている。だから、やつらより、早く、高度に牌を知ることが出来る。しかし、この状況ではそれは多少のアドバンテージでしかない。普通に打っていれば、牌勢が良いやつが勝つ、運任せとなる。配牌をもらった時点で、各々が、相手を上がらせず、自分が上がれる最適解を求め、それが出来なければ、相手の打点を下げる。ほとんど局が流局となった。その中でもミスと言えない些細な違いでAがへこんで行った。俺は、上れるときにあがり、出来るだけ局を延ばし、気づかれない様に、牌を仕込んでいった。

 南二局終局。これで決まりだ。次の局はAが上がってオーラスとなる。耳から生暖かいものが流れる。この方法は無敵だが、安易に行うことは出来ない。一つは脳への負荷が大きすぎる。自分だけでなく、ほかの三者の捨て牌すらコントロールして自分の思い通りに山に積む。しかも、洗牌は8パターンどのパターンでも、俺が勝つ牌を積む。計算をしている訳ではないが、絵具をつかって、一度に十枚近い絵を同時に書くイメージと言えば近いだろう。しかも全て違う絵を。全局で。仕込みで上がるのは最後の1局だけである。何度も使ってしまえば、俺が山を作れることがやつらに知られてしまうからだ。知るのは奴らだけでもない。

 前回のように手抜きでも勝てるようであれば問題ないが、今回のように本気でやらなければならない場合は、出来るだけ匂いを消して、自然に見えるように振舞わなければ、対局者だけではなく、観戦しているプロたちにも俺の手を見せることになってしまう。例えば牌が見えると知られてしまえば、その技を盗もうとするだろう。 まあ、こればかりは俺の能力に依存しているので、盗めないだろうが。しかし、俺が牌が見えていると分かればそれはそれで対処されてしまう。俺だけが牌が見えたとしても、他の三人が組めば、いかようにも俺を勝たせない様に出来るだろう。相手が超一流であればなおさら。そして山に牌を詰めると分かれば、それを逆手にとって切り順を変えて、俺の好まないような山にすることも出来る。そして、この機械たちが気が付けば、奴らの学習能力なら、同じように山を積むことをするだろう。しかも、それに耐えうるだけの計算能力も持ち得ている。だから、やつらの牌読みを邪魔するようなことをせず、僅かな違和感も抱かせない様に打つ必要があった。しかし、もう十分だ。山は詰まれた。サイコロは狙った目が出せる。この局を終わらせれば、俺の価値が確定する。しかも気づかれることも無く。

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