第4話 レア装備
このダンジョンに限る事では無いが、ダンジョン内では雑魚モンスターからかなりの低確率ではあるが、レア装備が手に入る事がある。
彼女がたった今手にれて装備した武器と防具がそれで、このダンジョンでは彼女のジョブである白魔道士装備のデザインが特に良いと評判だったりする。
『そう言えばその武器と防具』
『はい?』
『結構なレア装備だよ。 これから暫くはその装備をつけていれば戦闘面は安心だね』
『おおっ』
『キャラクターに似合ってるし、いいね』
そう俺がいうと彼女はぴょんぴょん跳ねてチャットを返してきた。
『ありがとうございます。 これ、凄く可愛いので嬉しいです』
フードのついた白い魔術師のポンチョ。下は膝あたりまでを覆う青いスカートで、レースがあしらわれている。杖は先端に赤い水晶がついている樹の根のようで、白っぽい。
しかし可愛らしい見た目に反し、性能はかなりのモノで、改造やエンチャント等の強化をすれば、彼女の今プレイしている物語のラスボス戦までも活躍できる力を秘めている。
オシャレ装備は見た目が良く、性能は低いのが当たり前なのだが、この装備はそのどちらも上等のアイテムだ。
(......まあ、それだけにかなりの低確率のレア装備なんだけどな。 それも武器と防具の二つ......すげえ強運)
『それ、ドロップ率0.1%以下のレア装備なんだよ。 凄く運いいね』
『そんなに低いんですか!?』
『うん、それを求めてパーティー組んでここを周回する人たちも多いよ』
『すごいですね』
『それを君は2つもドロップさせた。 すごいのは君だよ』
『運が良かったです』
(まさにそのとおりなんだが、でもここは物語の世界に深く潜れるよう......ちょっとクサイことでも言ってみるか。 雰囲気が大事)
『いや、それは必然かもしれないよ』
『必然?』
『それ程の低確率のアイテムが2つも手に入るのなんて奇跡だよ。 だから逆に必然なのかもしれない』
『?』
『この世界の神様が君の冒険を後押ししているのかも』
『世界の神様』
『うん』
『それはつまり』
『つまり?』
『ゲームを開発した皆様ですか』
あー、ね?なるほど、そういう感じね!確かにこの神ゲーを創り出した開発は確かに神様であるといえる。何これ......はっず。
一人恥ずかしさに内心悶えながら、またもや道を妨げるようにそびえ立つ巨大な門の前へとたどりつく。
『さて、ついた』
『すごく大きな扉ですね』
岩にめり込んだように見えるこの木造の扉は、関門でもある。
第1の秤とも言うべきか。そう、ここは――
『第1ボスの部屋だ』
『ボスの部屋』
ダンジョンには基本的に第1のボス、第2のボス、そして最後のラスボスが存在する。それらは決して避けて進むことは出来ず、彼らと戦いこれを討ち倒す必要がある。
俺はyukiさんにヒールをかけ、HP《体力》を満タンにしてあげる。これからボス戦に向かう彼女へのエールでもある。
『さて、それじゃあ行こうか』
『ボスの部屋にお邪魔して、大丈夫なんですか?』
? それは、どういう?
俺は彼女の言った言葉の意味を理解できずに、無言で数秒直立していた。
(ああ、そうか......ゲーム自体あまりやらないみたいだし、ゲームにおけるボスの概念が無いのかも知れないな。 説明しておこうか)
『うん、大丈夫だよ。 なにしろボスを倒さないと先に進めないからね』
『?、ボスを倒して先へと進む?』
(なんか懐かしいな......この子、ネトゲ仲間の日夏みたいだ。 彼女もビギナーの時こんな感じだったな)
『ちなみにボスっていうのは、各チェックポイントに存在する強いモンスターの事で、彼らを倒す事で次の道が開かれるんだ。 だから倒さなければならない』
『なるほど、そういう事ですか』
本当にこういうゲームをした事がないんだな。まあでも、理解してくれたようでなにより。
『そーいうこと。 それじゃあ、行こうか』
『はい!』
『がんばってね』
『はい?』
綺麗なお顔がキョトンとしたように見えた。
『ここのボスを君が倒すんだよ。 もちろん、サポートはするから気楽にね』
『なるほど』
彼女は飲み込みが早い。一度教えた事をしっかり覚え実行する事ができる。
人は頭で理解していても、覚えていても出来ないことなんてざらにあるのに、彼女はその部分だけみればビギナーとは思えない程に簡単そうに実行していく。
(ここまでの道中......まだ始めたばかりの初心者だというのに、ここの中級レベルモンスターをもう簡単に倒す事ができている。 これは高い反応速度と周囲の地形をつかう機転、頭の回転が早くなければ出来ない......短時間でこの腕の上がり方は異様だな)
扉が轟音を奏で、手前に開かれた。奥はうす暗く、壁に差さる松明でかろうじて道がみえるだけ。
『進みますね』
『ああ』
数メートル歩いたところで背後の扉が閉まった。
松明の火が大きく揺らぎ、あたりの壁一面を覆う。
そして、その業火から大きな影が飛び出し現れた。
血のように赤い鬼の姿をした、巨大なモンスター。このダンジョンの第一ボス、『滅鬼・オウガ』だ。
『一応注意というかアドバイス』
『はい』
『負けても入口戻されるだけだから、気楽にね』
彼女はひとつふたつと飛び跳ね、チャットを返した。
『わかりました』
――彼女は紅に輝く杖を構えた。
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