第7話 光の海



――それから、星に囲まれる迷宮エリアを抜けでて巨大な壁へと突き当たる。それはボス部屋、アークベリアルの待つ場所だ。


『開けますね』


『うん』


ゴウンという重々しい音とともに扉を開くと、そこには一つの椅子に座る一つの影。


彼は言う。


『――ああ、来たのだな。 そう、これは退けぬ戦いだ......お前たちはお前たちの、俺は俺の同胞を......未来を護るために』


額から突き出る二本の角に、褐色の肌と炎のような朱の長髪。そして黒々とした鎧を身に纏い、背には巨大な槍を備えている。


ゆらりと立ち上がる彼からは、目には見えないが確かに覚悟という圧力が伝わってきた。


『こい、英雄。 俺を倒してお前たちの覚悟を示すがいい......!』


yukiさんと俺が素早く武器を構え、戦闘が始まる。


燃える炎の槍と、蒼の魔力を纏う槍。突き、薙ぎ払い、辺りを吹き飛ばす攻撃の連打。


yukiさんにヒットしそうな物をカウンターで打抜き、叩き落とす。しかし、それでもアークベリアルの猛攻は間合いへの侵入を許さず、彼女は攻めあぐねていた。


(攻略にかかった時間からして......恐らく、アークベリアルの強さは最大に近い。 これは、流石に俺が刺さないと難しいか?)


――ギィンッッ!!


(っと、あぶねえッ!?)


攻撃スピードも強化されてるのか!このレベルのアークベリアルとの戦闘は俺も初めてだから知らなかった!


盾と剣を持ち直し、槍に集中する。しかし、どんどんと加速的に増えていく攻撃パターン。それは俺の知らない技が幾つかあり、ジリジリとHPが削られていく。


(すげえ、これがこいつの!! アークベリアルの全開の強さ!! やば、ちょっと楽しくなってきたな、ははっ)


槍をいなし、無理矢理に隙きを作り出す。そこへ剣を突くようにして差し込むが、アークベリアルの纏う鎧でそこまでダメージを与えられない。


持っていた装備が物理ステータスの大きいものであったため、鎧を纏う物理御力の高いアークベリアルには効果的な攻撃が通らなかった。


――いや......ま、でもダメージ入るには入る、な?


(だったら!! このまま削り潰すッッ!!)


予想を遥かに上回る強敵の出現にゲーマーの血が騒ぎだす。


しかし、アークベリアルのHPはほんの少しずつ減り始めたが、ダンジョン攻略の制限時間に間に合うかは微妙に思えた。


――倒せる......が、これは、間に合わないかもしれない......ごめん、yukiさん......!


その時


――ドゴォォッッ!!


俺の攻撃に気を取られ隙だらけの背に、紅い光弾が撃ち込まれた。


(yukiさん!!)


チャットを打つ隙もない刹那、だがしかし確かに意思疎通がされたように感じた。


『『できる限り迅速にアークベリアルのHPを削り切り、倒す!』』と。


そこからは時間との勝負。多様に繰り出されるアークベリアルの攻撃を俺が捌き、隙きを見つけたyukiさんが光弾を放ちHPを削る。


そして彼女が攻撃に加わる事が出来る状況になったため、俺も更に斬撃をヒットさせる事が出来た。


じわじわと減っていくHPはアークベリアルも俺も同じで、しかし違ったのはこちらにはyukiさんという白魔道士、ヒーラーがいたということ。


これほどまでに切羽詰まった状況で、俺のHPを確認しながらヒールをかけ、更には敵への攻撃を重ねるという、難易度の高いプレイをこなしていく。ビギナーの彼女が。


そして、彼女の動きにより活路が見出されたのは明らかで、戦闘の最中でまたひとつ成長した彼女を誇らしく思う気持ちが、そこにはあった。


――HPのバーがゼロである黒を示し、アークベリアルが地へと膝をつく。


『......あとは、頼んだぞ......えい、ゆ......う......』


彼は断末魔もあげず静かに、ただ一言そう言って光の海へと還っていった。


『お疲れさま、これでダンジョンクリアだ。 おめでとう!』


『ありがとうございます』


消えたアークベリアルの居た場所をじっと見つめるyukiさん。


『ゲームなのに、こんなに切ない気持ちになるんですね』


『うん』


『でも』


『ん?』


『彼のお話をもっと知りたくなりました』


そう言って彼女はぴょんとひとつ飛び跳ねた。


......人と同じ物、感情を共有すること。自分の好きな物を理解してくれた時の喜びは何にも代え難い。


生活の一部、もはやネトゲ内で生きているとまで思っている俺だからかもしれないが、このゲームを良く言われるとそれなりに嬉しくなる。まるで全てを肯定されたような、そんな気持ちに。


(そういえば)


そしてふいに、仲の良かった幼なじみの、いつしか距離を置かれてしまった彼女の顔が頭を過る。


(......白雪は、なんでネトゲを嫌ったんだろう)


これまでゲームをしてこなかったからか、もしくはこの素直さは彼女生来のものなのか。素直に受け取り浸る彼女が、可愛らしく思えた。


『よし、それじゃあ先に進もうか』


『?』


『奥が宝物庫になっているんだ。 アイテムを回収しよう』



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