第6話 好敵手
美しい海の見える景色。しかし、少し先へと進めばまた洞窟ともよべる穴へと続いていて、『なんとも短い絶景でした』とyukiさんががっかりしている事が伝わってきた。
『でも、この先も綺麗だよ』
『本当ですか!』
再度暗闇に包まれた洞窟へ突入し、俺はフラッシュを唱えた。すると、その光を反射し辺りの壁や天井に刻まれたルーンが輝きを放ちだす。
それはまるで天の星々が命を燃やすかの如く、美しい光。青々と燃えゆる炎のような光は、みていて不思議と悲しい気持ちにさせる。
『星空のように綺麗ですね』
『ね』
この3ボスへと続く最終エリアはかなり入り組んでおり、フラッシュの光を使わずに進行すれば鬼の難易度を誇る。
しかし、実はフラッシュを使えばこの星のルーンがその魔力の光を吸収し、洞窟滞在時間が長ければ長いほどボスが強化されるというギミックがあったりする。
なので、TA勢は道を完全に覚え暗闇を突っ走る。まったく視界のきかない闇をセンサーか何か搭載されているんじゃないか?ってくらいあっという間にボス部屋までたどりつくのだ。
俺のフレンドに一人TA勢がいるが、最初に攻略を見せてもらったときは驚いたものだ。え、なにこれ録画みせられてる?的な。
(ま、暗くて何も見えないのも楽しくないだろうし、混乱するだろうから......フラッシュはいるよな。 あとボスのギミックは焦ったらまずいから言わんどこ。 教えるにしても終わってからが良いな)
そうだ。ひとつ小ネタ、というかここのダンジョンについての情報を。
『ちなみにさ、この光の一つ一つの文字にも意味があるんだよ』
『この文字に意味が?』
『うん』
『一体なにが書いてあるんですか?』
ここに刻まれるは失いし同胞の名。
『これは仲間の名前が刻まれているんだ。 3ボス、アークベリアルのね』
『仲間の』
ここの3ボスは実はFDでは人気のボスで、プレイヤーからは結構愛されていたりする。
その理由がこれで、とても仲間想いのキャラクターだ。
ストーリーでは魔王に部下の一人を人質にとられ、プレイヤーである俺達を倒せと命令され戦うことになる。
本来であればこの時点で人との融和の道を彼は見いだせていたのだが、アークベリアルは大切な者の為に戦うことを選びプレイヤーに立ちはだかる。
『そして倒された彼の同胞の名前がこの洞窟内の壁や天井に浮かび上がる』
『ということは、ここまで倒してきたモンスターの名も』
『そうだね』
ちなみにダンジョン内のモンスターも、そんな訳で倒せば倒すほどアークベリアルが強化されたりする。
『とても切ないですね』
かいつまんで説明をしたが、話が伝わったようで彼女はそうチャットを返した。
『とはいえ、どの道戦わなければ彼の部下も殺されてしまうから、戦うしかないんだよね』
『どちらにも退けない理由があるのですね』
『そう、だから全力で倒そう』
『はい、がんばります』
もう、3ボスか。ここまで時間的には結構かかっているけど、あっという間だったな。
まあ、それだけ楽しかったって事なんだけど。やっぱり楽しい時間はあっという間に流れるように消えていく。
そして、仕方のない事だけれど、その度に寂しい気持ちが生まれる。だからこそ、俺は終わりの無い冒険にのめり込んでいくのかもしれない。
サービスが終了すればその限りではないけど。こわっ。想像するの怖。
しかし、彼女はどう思っているんだろうか。
多分、最初はいきなり知らないやつが押しかけてきて、急なダンジョン攻略が始まり困惑したに違いない。いや、もしかしたら今も早く終わらないかな?なんて思っていたりするかも。
楽しいとは言っていたけど、それは俺に合わせてくれたのかもしれないし。
......なんだろう、急にネガティブになってきたな。
『haluさん』
不安になり始めた俺。その時、彼女がチャットを打ち名を呼んだ。
『ここに1ボスのお名前が!』
『あ、本当だ』
なんかウロウロしながら進んでいるなと思ったら、名前をさがしながら歩いていたのか。眠くなったのかと思った。
『私は』
『ん?』
『まだこのゲームのストーリーはよくわかってないですが、アークベリアルの失いたくないモノがあるという想い。 凄くわかります』
彼女のキャラクターがにこりと微笑んだ気がした。
『私も失いたくないモノの為にこのゲームを始めました』
『失いたくないモノの為?』
『はい』
『それはもしかして、最初にはなしに出てきた友達の事?』
『そうです。 とても仲が良かったんです。 けど、とある時期から疎遠になってしまって』
仲が良い友達......俺にも覚えがある。毎日のように遊んでいた幼なじみが、突然変わり二人の間に壁が出来た。お互いに別々の日々が流れるように進み、何故だとかどうしてが言えずに新たな学生生活に入り、そのままの関係に。
『私、また仲良くなりたいんです。 友達の好きなゲームを、同じものを好きになって、また一緒に遊びたいんです』
彼女は強いな。俺は何も出来ずに、傷つけられまいと言葉にすることを避けた。けれど、彼女は、yukiさんは歩み寄ろうとしているんだ。
あの時の俺と違って。
『きっと出来るよ。 俺に出来ることがあったら言ってね』
『はい!』
この人は俺が思っているよりも真っ直ぐで、このゲームに対する想いが強いんだ。
だったら、彼女がその友達とまた仲良く遊べるように、全力で背中をおそう。
勝手ながらも、俺の分まで力を込めて。
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