第8話 ふたり星と
宝物庫は3ボスの部屋の奥、そこからまた別の部屋へかかる橋を渡った場所に隔離されるようにある。
――ボス部屋を抜けると、そこには
『すごい』
『うん』
満天の星空と、オーロラの奏でる美しき世界が姿を現した。
今にもおちてきそうな星々が爛々と輝き、かわりに雪がゆっくりと着地していく。
この雪には魔力が混ざっていて、薄っすらと碧く光る。
『このダンジョンの美しいといわれる意味がわかりました』
『そっか、良かった』
ゲームの画面とは思えないほどの景色。けれどもこれはゲームでしか味わうことのできない、美しい景色。
ゲームでしか再現の出来ない、淡くも儚い幻想郷。
無言で立ち尽くす二人。
遠くの水平線に至るまでの海面には、空の星々が映り、落ちる雪がまるで空の星が海に溶け込んでいくかのよう。
――いつ見ても、ここの景色は綺麗だな。
『私』
『ん?』
『家が厳しいんです』
yukiさんがチャットで語りだす。
『だから今までこういったゲーム関係を全て禁止されていたんです』
『うん』
『それで仲の良かった友達がこのゲームを始めて、誘ってくれたんですけど、私は出来なくて』
雲が月に被さり、光が抜ける。
彼女は言葉を続けた。
『そこからお互い遊ばなくなってしまいました』
『ああ』
『なのでまた仲良く出来たらと思って、このゲームを始めてみたんです』
『そっか。 なるほど』
『あの人の好きな物を理解できれば、また仲良くなれるかなと』
『うんうん』
趣味趣向の違いでって感じだな。よくある話なのかもしれない......実際、俺と幼なじみの白雪も似たような感じで疎遠になったしな。つーか、境遇がそっくり。
......だからその気持ちはわかるよ。
『それで、どうだった? このゲームをプレイした感想は』
彼女はくるっとこちらに向き直る。
その時の彼女は、まるでドラマのワンシーンのようで。
彼女の紅々とした瞳が空の星々と同じくらい美しく見えた。
『はい、とても楽しかったです。 FDは本当に素敵なゲームですね』
俺は、彼女の美しさに息をのんだ。勿論、ゲームのキャラで中身の性別すら知らないけれど。
まるで天使のような彼女の幻想的な姿。この世界で生きる彼女はただただ美しいという他なかった。
『こちらこそありがとう』
(......この人のキャラクター、本当に......)
◆◇◆◇◆◇
そして二人で記念にSS《スクリーンショット》を撮ることに。彼女はそれも知らないみたいで、撮影の仕方を教えた。
いくつかのSSを撮り終え、ダンジョンを出るとき。
『今度はさ、そのお友達とSS撮りに来たらいいよ』
お節介のような一言を彼女におくった。あとは俺には背中を押すくらいしか出来ない。
そう俺がチャットを打つと、少しして返事がくる。
『一緒に、は少し難しいかもしれません』
『?』
『私、ゲーム下手ですから』
『そんなこと無いと思うけど』
このダンジョンでの成長を踏まえた上で、彼女はもはやビギナーのレベルではないように思う。大丈夫だと思うんだけどな。
『でも、迷惑をかけてしまったら仲直りどころか嫌われてしまいそうで怖いです。 それに私まだ始めたてで良くわかってない事ばかりだし』
ああ、確かにその気持ちはわかる。腕はあれど装備レベルやストーリーの進み具合で一緒に行ける場所ややれるコンテンツは限られてくる。
そのレベルになるまで相手を拘束してしまうなんて事になる可能性があるなら、一緒に遊びたいとは言い出しづらいだろう。
『確かにそうか。 なるほど』
『ですです』
なんだろう、他人事に思えない......思えないし。
俺はこの人のことを気に入っているのか、それとも同じ境遇に共感したからなのか。
『じゃあ、俺が手伝うよ』
『え?』
『君がお友達のレベルまで追いつけるよう協力する。 yukiさんがよければだけどね』
――この人を応援したい。
『そんな迷惑はかけられません』
『迷惑?』
『あなたの時間をいただくなんて』
『なんで? 俺は今日のダンジョン攻略だって楽しかったよ』
『でも』
この感じは......遠慮してって感じか。だったら。
『俺もさ』
『はい?』
『yukiさんと同じで疎遠になった幼なじみがいるんだ』
『幼なじみ』
『だから、それもあって君を応援したい。 そんな理由じゃダメかな?』
無言になるyukiさん。
画面の向こうにいる生身の人間を感じるこの空気。時間の流れが思考と迷いを感じさせる。
(......これは、お節介か? いや......)
またネガティブな思考で、ホントは嫌がられているんじゃないかとか考えないよう「yukiさん、まつ毛長いな」とかどうでもいい事を考えるよう努めた。
そして大体三十秒がたった頃、チャットが返ってきた。
『では、お願いしてもいいですか』
『うん、勿論』
――精一杯、背中をおそう。
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