第9話 登校



〜翌日〜



「くあ〜あ......さぶっ」


寝不足の体を襲う冷え込み。雪でも降ってきそうな気温だな。


そんな事を考えながら睡魔と寒さに遊ばれる朝。しかしその眠気をぶっとばすように、俺の背へとドンと衝撃が走った。


「いって......」


「へいへ〜い! あははっ」


(......またか、俺の姿を見つけると決まってタックルしてきやがる)


振り向けばやはりと言うべきか、そこにはいつものゲーム仲間が立っていた。彼女はちいさく手を振り、にこにこと笑みを浮かべる。


「よ! おはよー、ハル! まーたゲームのやりすぎぃ? いつも眠そうにしてんねえ?」


にひひっ、と見せる可愛らしい笑みを、背中をさすりジト目で見つめる俺。


えっと、背中痛いんすけど......。つーか、相変わらずこいつの笑顔はゲームであればカンストのダメージを出せんじゃねーかってくらいの威力があるな。


こんなん男子ならソッコーで惚れるわ......って、俺、男子やないか〜い!つってな。


(......さぶっ、いやぁ冷えるわ)


俺はそんな事を思いつつ、視線をそらし言葉を返す。


「あー、いやいや、勉強だよ。 勉強で寝不足」


「え、ハルが勉強? マジ?」


「ちょっとレイドボスの攻略をな......」


「いや、それゲームじゃん!!」


サイドテールの亜麻色の髪を揺らし、イヤイヤ!とノリよくキレのいいツッコミを入れてくる彼女。


名前を、真白ましろ 日夏ひなつと言う。


くりくりとした大きな目と少しつりあがった目尻、長いまつ毛。そして澄んだ水色の空を切り取ったかのような美しい碧色の瞳。


耳にはいくつものピアスがあり、見ているだけで凍えそうな生足&見えるんじゃね?ってくらい上げたスカート。


そう、彼女は陰キャの俺とは住む世界の違う、いわゆるギャルと言うやつである。しかも校内で1位、2位を争うトップクラスの美女だ。


ちなみに彼女の美しい髪色と瞳の色は染めたものでもコンタクトでもない彼女生来のものらしい。


(マジでゲームん中から抜け出て来たんじゃねえかってくらいの美人だよな、この人)


「しっかし本当に熱心だねえ。 ま、好きなことに努力を惜しまない、ハルのそーゆうとこアタシは好きだぞっ」


「おー、ありがとよ」


「ついでに装備作ってもらえるとより好きになるかも」


ニタリと悪戯な笑みを浮かべた。


「あー、つくれるものだったらな」


「やったぁ!って、いやいや、作れないものないじゃんさ。 ハル、あのネトゲの世界でたった5人しかいないクラフトマスターの称号持ちなんだし! 君が作れなきゃ誰も作れないじゃん」


いや、まあそうだけど。素材関係が......。


「そりゃまあ、てか素材は?」


「もちろん、アタシ持ち......でも一緒に採りに行ってほしいかな〜」


「いいけど、結局何作るんだ?」


「スターライトショコラ!」


スターライトショコラって、食事アイテムか。確かに可愛らしい名前に反して作るにはかなりの熟練度と装備が必要になってくる。


そしてその素材も入手が困難なものばかりで、まず素材を手に入れる段階で数時間かかる。


(いくつか持ち合わせの食材があるが......どうしても二つは自力で採りに行かなきゃならないな。 時間......ううむ)


ぼんやり頭の中で時間計算をする俺。その時、日夏がくいくいと制服の端をひっぱる。


「時間の心配、だよね? ごめんね」


不安そうに上目遣いでこちらを見上げる日夏。


「でもさ、お礼はちゃんとするから......だめ?」


「お礼......?」


「今度お弁当作ってきてあげる! どう?」


(なんだとッ!?)


「なに!?」


「アタシの料理の腕しってっしょ? リクエストにも応えてあげるし!」


確かに以前食べさせて貰った料理は美味かった。肉じゃが、きんぴらごぼう、中でも豆腐ハンバーグは今まで食べた全ハンバーグを軽く凌ぐ程の絶品。


いやまてよ!?しかしそれなら日夏の料理が対価となると俺のが得しすぎな気が......!!


おまけに何か追加で作ってやるか。日夏の料理を天秤にかけるならそれでも足らんくらいだ。


......って、俺の胃袋は日夏の料理に完全に掌握されてんなあ。


「えっと......豆腐ハンバーグ、が良いかな」


「お、いいねえ! ハルめっちゃ美味しいって言ってたしね! わかった!」


にかっと白い歯を見せ、この曇り空を吹き飛ばせるんじゃねーかってくらいの笑顔をみせる。少なくとも俺の学校行きたくねーっていう憂鬱は吹き飛ぶ。


そういや、いつアイテム作るんだ?


「アイテムいつ作るんだ? あれなら今日の夜にでも作ろうか?」


「あー、ごめん、今日はちょっと用事あるんよね〜。 明後日とかはどーかなあ?」


明後日は......レイド関係も無いし、yukiもインの予定は無い。大丈夫か。


「うん、わかった。 明後日だな」


そんな話を重ねながら歩いていると、前方にクラスメイトがちらほらみえはじめる。


(......おっと、マズイ)


「もう良いか、そろそろ......」


「え、なんで? 一緒に学校いこーよ」


頬を膨らませ、ジト目で睨みつける日夏。


「いや、ほら......二人で登校なんて目立つだろ。 噂になったら困るし」


「へ!?」


はたっ、と目を丸くする日夏。そのあとじわりじわり茹でダコのように赤面していく。


いや、今言われて気がついたんかい。普段の接し方から異性として見られてないんじゃ?とは思っていたが、ちょっと悲しいよね。


「あ、アタシは、その......ねえ? べ、べつ」


日夏は視線を泳がせ、しきりに髪をいじり始めた。


(......?)


「ま、そいうことだからさ。 ......日夏だって俺みたいな陰の者と噂たてられたら素敵なイケメンを捕まえそびれんぞ。 じゃ、またな!」


「あ、ちょ......む、むぅ」


何かいいたそうにしていたが、タイムアップだ。頬をぷぅっとふくらませる日夏を置いて俺は軽く駆け出した。


......おれは出来るだけ平穏な高校生活を送りたい。


あんなイケメンに告白されまくるような天上の人間と、間違ってでも付き合ってるだなんて噂たてられてみろ。


僻まれ疎まれ嫉妬され、ネトゲライフどころではなくなってしまう。



それは絶対に避けたい。......絶対に俺の世界は壊させない。



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