第10話 寝ぐせ
日夏と別れ、俺は小走りで学校を目指す。
(マジでさみい......早く教室はいりてえ!)
冷たい空の下、小走りなのは日夏と一緒に歩いているところを見られたくないだけではなく、早くこの寒さから逃げたかったというのもある。
(そろそろ雪降るんかな......嫌だなぁ)
未だ降りそうで降らぬ雪に思いを馳せ、校舎へと急いでいると前方に見覚えのある後ろ姿が現れた。
――あ、白雪。
赤いチェックのマフラーと、鞄に林檎のキーホルダー。
(......あれ、まだつけてんのか)
その時、俺の心の声が伝わったのか、彼女は立ち止まり俺の方へ振り返った。
そしてその可愛らしい顔を歪ませ、じっとこちらを睨む。
「......おはようございます、春一くん」
「あ、ああ、おはよう、白雪」
「ん、あ......?」
「えっ?」
なにかに気が付き、彼女は俺の元へぱたぱたと駆け寄ってきた。
「......寝癖ついてますよ、春一くん。 少し動かないでください」
白雪は俺の後ろへと素早くまわりこむと、ゆっくりと撫でるかのように俺の髪を直し始めた。
「や、やめろ......ちょ、皆みてるからやめてくれ!」
「だったらちゃんとしてくださいよ......っと、はい、もう少しだけ動かないでください」
恥ずかしい気持ちと、頭を撫でられている心地よさが混同する。優しく柔らかくなでる彼女の手の温もり。
「はい、できました」
「......あ、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
白雪は寝癖をなおし終えてもなお、じーっと見てくる。ま、まだ何かあるのか......?
「......また、ゲームですか? 春一くん、すごく疲れた顔してますよ」
「まあ、ちょっとな......」
「ほどほどにしたほうがいいですよ。 倒れたら好きなゲームも出来なくなっちゃうでしょ?」
「ああ、確かに......気をつけるよ。 ありがとう」
彼女の名前は、
肩にかかる艷やかな美しい黒髪と、天使の羽のように白く柔らかそうなきめ細かな肌。
その眼差しはラノベ小説に出てくる聖女のように優しく、慈愛に溢れているようで、多くの人を魅了する。(俺には厳しいが)
そしてトドメは、人よりも少しふっくらした唇。僅かだが口紅が薄く引かれていて、林檎色に彩られたそれはいかなる男の視線をも釘付けにしてしまう。
――彼女は......俺の、幼稚園からの幼なじみ。
まあそんなこんなで、俺はあくまで幼なじみとして自然と近い場所にいるが、白雪も日夏と同じく校内最高クラスの美女と呼び声が高い女子生徒である。
「......な、なんですか、そんなに見つめて......?」
「いや、なんでもない......ごめん」
本当なら陰キャの俺が横に並び立つ事など許されない。彼女は、あくまでも幼なじみという位置で、決して俺なんかが手を伸ばせる人じゃない。......ゆくゆくはイケメン秀才とでもくっつくんだろうか。
そう、冴えない俺とは全くもって釣り合わない。この昔からの「姉弟のような関係」を天秤にかけてやっとそのバランスがとれるくらいの......彼女と俺はそういう関係だ。多分。
......まあ、こけるのがわかっていて、手を伸ばす奴もいないけど。
「本当にどうしたんですか、春一くん......もしかして寝不足で気分が悪くなってきたんですか?」
「ん......いや、大丈夫だ。 いこう、遅刻する」
「......はい」
並び歩く二人だが、その距離は近くて遠い。
彼女には昔の、一緒に遊んでいた頃の面影は無く。
埋めることの出来ない溝があることを、冷たい風が二人の間を抜けそれを教え消えゆく。
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