第11話 まさかの
「......ふぇい」
やっとこさ学生の本分と呼ばれる授業が終わり、疲れと開放感に揺られ机に突っ伏す。
しっかし午後からの授業は本当にキツいわ。腹がふくれて満足感全開の脳に教師の話が子守唄に聴こえる。こんなの寝るなって方が無理だろ。
(そんで部活あるやつらはこれからまた頑張るんだろ? やべえよな......全くご苦労な事だよ)
ま、俺もいつまでもだらだらと開放の余韻に浸っている場合ではないんだけどな。......さっさと帰ってネトゲにインせねば。
学生の本分が授業であろうが、俺の本分はネトゲ。帰ろ、俺の世界に。
寝不足気味の体を引き剥がすように、ゆらっと机から上体を起こした。
(よっこらせ、っと......オッサンか!つって)
ふらふらと廊下を歩いていると、遠くに日夏の姿を確認した。
ギャル仲間であろう女子数人とキャッキャウフフと騒がしく廊下を練り歩く。
(こう見るとマジでアイツとネトゲ友達とか不思議な気分だわ。 どうみても住む世界が違うもんなぁ)
それを眺めている男子生徒たちが口々に噂する。
「マジ可愛いよな1-Cの真白 日夏」
「イギリスと日本のハーフらしいな」
「そうなん!? 通りで美人な訳だよ!」
「おまえ、告ってこいよ。 ワンちゃんあるんじゃね?」
「無理だろ、池田先輩が振られたって噂だぜ?」
「マジで!? あの学校1のイケメンがか!?」
マジで池田先輩が!?......いや、知らんけど。驚いてはみたものの。
(日夏、やっぱりモテんのな......てか振ったのか)
......既に彼氏がいるんか?いや、そりゃいるか。日夏とはネトゲの話ばかりでそういう話しはしないから聞いたことはないが、美人で愛嬌もある彼女だ......むしろ、いないほうが不思議だよな。
――その時、俺横を通り過ぎようとしている彼女。
(......こう見ていると、まさに別世界の人って感じだな)
――すれ違う手前、目が合った。
鳴り出す心音、キョトンとしている日夏は、すれ違いざま
(......ッ!?)
にこりと頬を緩ませる。そして、その瞬間に俺の指先に彼女の指が微かに触れた。
――過ぎ去る彼女と、バクバクとなる心臓。
(な、なんだったんだ......)
幸い周囲の人間には見られてはいなかったが、かなり心臓に悪い。
(あいつ、わざと......? い、いや、んなわけないか。 マジ焦ったぁ〜)
ちなみに彼女は俺とは別のクラスなので交友関係は知る由もない。多分、俺の知らんところでイケメン彼氏と昼食でも食べていたりするんだろう。
(あれ、じゃあネトゲ友達とはいえあまり遊ぶの良くないのでは? さんざん遊んできたけど、俺いずれ日夏の彼氏さんに怒られるのでは......)
マジでどうなんだ?
と、んなこと考えて時間潰してる場合じゃないな。この件は改めて日夏に聞くとして、どうするかはそれ次第だ。とりまネトゲするために帰ろう。
そう思い、いつの間にか通り過ぎていた下駄箱。
「あっ」と声をあげ、戻ろうとくるり玄関へ向かおうとしたとき俺は後ろにいた彼女に気がついた。
美しい黒髪、惹き込まれそうな瞳。
立っているだけで、どこでも絵になるような美しさ。
「......白雪」
「ども。 お疲れさまです」
? 俺を待っていたのか?
「どした? 俺に何か用か?」
「えっと、はい......まあ」
「なんだ?」
白雪は俺にそう聞かれると、口を開きかけたが応えを口にすることは無かった。
代わりに、彼女は
「......とりあえず、歩きながらで......今日は一緒に帰ってもいいですか?」
それは良いが、ひとつ疑問が浮かんだ。白雪は部活動に入っていたはずなのだが、このまま帰宅しても大丈夫なのか?と。
「......良いけど、部活はどうしたんだ? 今日は休むのか?」
そう問いかけられた白雪は、目を可愛らしくパチクリさせ、返答した。
「え、休むのかって......テスト期間中なのでお休みですが」
あ、そうだった。......普通に忘れてたわ。いや、テスト期間忘れるってだいぶヤベーな。我ながら。
「......ああ、そうだな」
濁す俺に、白雪は目を細めじーっと見つめてくる。見ようによってはゴミでも見るかのような辛辣な目つきだった。
「その雰囲気、春一くんもしかして勉強してないんですか? ......これはまた先生に公開処刑されてしまいますね」
「!? な、なぜ、それを......!?」
「『私はやれば出来るのにやりませんでした』と書かれたダンボールを首から下げさせられ、職員室前に立たされている所......二階から見てました」
「はっっっず!!」
見られてたんか!?あれを!?
「......ちなみに携帯でも写真をとってあります」
「なんで!?」
「記念です」
「記念で!?」
どんな記念だよ!幼なじみの処刑されている姿が記念とかサイコパスが過ぎるよ!
「......それは置いといて。 先生ではないですが、あなたはやれば出来るのに何故勉強しないんですか?」
「そ、それは......まあ、色々と立て込んでいてだな」
「ゲームですか」
「えーっと......はい」
「はぁ、本当に好きなんですねえ、ゲーム」
ふう、と息を吐き、こめかみに手を当てる白雪。
「......まあ、でも、最近は少しその気持ちがわかるようになりました」
......ん?今、なんつった?
携帯ゲームすらしたこともない、白雪の意外すぎる返答。「楽しいにしても、それなら勉強してたほうが楽しいし有意義じゃないですか」と、全く理解しようともしなかった彼女。
俺は自然とそれに食いついた。
「......もしかして白雪もなにかやってるのか?」
「あ、えっと......秘密です」
ふいっとそっぽをむく白雪の横顔。心なしか、少し柔らかくなったようにみえた。
話したくないゲーム......この恥ずかしがりようはイケメンアイドルゲーとか?もしかBL?ふふ、白雪さんも女の子なんですのね。と、勝手な妄想を繰り広げる。
「ま、わかるなら、わかるだろ? すぐ誘惑に負けしまう俺は、いざ勉強しようとしても『とりあえず少しゲームしよっと』と、そのスイッチを押してしまう訳なんだよ」
「訳なんだよ、じゃありません。 なにドヤ顔で言ってるんですか......はぁ」
なんかため息ばかりつかせてスマナイ。でも人間正直な方が良いだろ?と、口に出せばまたしかめっ面にさせそうなセリフを脳内で泳がせていると。
「わかりました、なら......一緒に勉強しましょう」
「あー......えっ?」
全く予想外の提案をされた。
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