第3話 キャラクター


技術の進歩は目まぐるしく、様々な企業が新たな試みと挑戦を繰り返し続ける昨今。


それはゲーム業界も同様に、次々と開発されるゲームがそれを取り入れては成功し、または失敗し、それを糧にまた挑戦を繰り返す。


そうして近年開発を重ね、実用化されるまでに至った一つのキャラクタークリエイトシステムがある。



『フェイスアップクリエイトシステム』


これは最近のゲームにはデフォルトで実装されている機能の一つで、キャラクタークリエイトが苦手、または面倒だという人向けのシステム。


どういうモノかというと、自分の顔をゲーム機本体に備わっているカメラでスキャンすることにより、キャラクターを自分の顔に似せ製作する事が出来る。


ある程度のゲーム世界に馴染むよう補正がかかるが、まるで別人とまではならず、まさにその世界に生きるもうひとりの自分を作ることができるのだ。


勿論、芸能人や漫画のキャラクターをスキャンすることでその顔にすることもできる。むしろそちらのほうが大多数だろう。


好きなキャラクターやアイドルをスキャンし、自分好みに調整する。そんな感じの機能である。


しかしなぜ今そんな話をしたのか?それは今、成り行きで同じパーティーとなったネトゲ初心者であろう彼女のキャラが今までに見たことがないくらいの可愛らしい物だったからだ。


――まるで天使の羽のように白く柔らかそうな肌、目を合わせれば動けなくなりそうな程の美しく紅い瞳。そして唇に引かれた林檎色の紅は色っぽさを醸し出していて見るもの全てを魅了する。


先程までは、ダンジョンが暗くてフラッシュの魔法を使っていても、あまりよく見えていなかったが。しかし、パーティーを組んで近くで顔を見てみると、まさに息を呑む程の整った美しい顔立ちだったのだ。


(まるで推しのイラストレーターがドストライクなヒロインのイラストをUwitterでアップしていたくらいの衝撃......)


彼女の隣を歩いていると、必死こいてキャラクリした俺のキャラが地味に見えてくるな。まあ、人族ヒューマンは元々顔立ちは地味だけれど。


ちなみに彼女の種族はエルフという透明感のある白い肌とツンと尖っている耳が特徴の大人気種族だ。


(しかし、これは誰の顔だろう......まさかリアルの自分の顔なのか? だったら相当な、それこそ芸能人とかアイドルのレベルだぞ。 補正があるとはいえ)


こんな美人なキャラクリ公式でも、キャラクリガチ勢でも見たことがない。俺はずっとそんなことを考えながら彼女の前を歩いていく。


ゆっくりと薄暗いダンジョンの内部を進んでいく二人。岩肌は少しずつ石壁へと変わり、確かに深部へと向かっていることを示していた。


(でも、この顔......気のせいか、なんか見たことあるような。 忘れてるだけで、やっぱり芸能人がベースか?)


っと、いつまでも人のキャラの事考えてる場合じゃないな。


――眼前に現れた巨大な鉄柵。それはもはや城壁のようで、先を差止めていた。


『行き止まりですね』


『ですね』


ぽけーっと鉄柵を見上げるyukiさん。そのまま考えこんでいるのか彼女は動かなくなってしまう。


『えっと、これを開けなければ先へは進めませんね。 どこかにこれを開くための何かがあるはず』


『!』


ここの鉄柵をあけるレバーのある場所はかなり見つかりにくい所にある。出来れば彼女に探し当ててほしいけど、下手すればかなりの時間をここで消費することになるな。


......うむ、でも。ここまで来て結局時間が足りずにリタイアになったりしたら悲しすぎる。景色を見に来たということは、SS《スクリーンショット》だってとる時間も欲しいだろうし。


ここだけ俺が先導して連れて行こう。


うろうろと彷徨う彼女へ俺はチャットを打った。


『すみません、ここだけ俺についてきてください』


『わかりました!』


よい返事をいただいた俺は行き先である方に少し移動し、ぴょんぴょんと跳ねる。『こっちきて』の意図が通じ、彼女は後ろをついてきた。


鉄柵の左手の脇道。支柱の裏に隠された道から、更に枝分かれしたこの道は攻略サイト無しでは中々の初見殺しで、ネットの話では迷って一時間も抜けられなかった人がいるという話を聞いたことがある。


ホントかどうかは知らないけど、それ程迷いやすく迷路のように入り組んでいるのだ。


(まあ、これもあってモンスターのレベルの割に中級ダンジョンといわれているんだけどな)


幾匹かのモンスターをyukiさんに自力で倒してもらいながら先へと進んでゆく。そして――


『何かあります』


『うん』


巨大な樹木の影に、腰の丈程もある大きなレバーが隠されていた。


『ここのレバーがさっきのあの鉄柵をあけるやつなんだ。 引いてみて』


『はい』


ガシャンと音を立てたレバー。その直後、遠くでガラガラガラと柵の上がる音と地鳴りが響き聞こえてくる。


『!』


『ね、今のが鉄柵が開いた音』


『おお』


『よし、それじゃあ戻ろうか』


『はい!』


その後、ゲームにもなれてきたのか、彼女はちょっとした質問や思った事もチャットで打って聞いてくれるようになった。


やっぱり反応があるのとないのじゃ全然違うからな。コミュニケーションあってのネトゲであり、それが醍醐味な所がある。


とか言って、少し前までは高難度コンテンツばかり行ってて人との関わりも疎ましいと思っていた俺が言うなよって感じではあるけど。



――今は、こういう楽しさもわかる。



順調にモンスターを倒し、ギミックを攻略しどんどんと奥へ進んでゆく。


(そういえば......自己紹介とかしてなかったな)


ちらりと彼女のプレイヤーネームを横目で見た。


(......yukiさん、か)


まだダンジョンの三分の一が終わるくらいだが、もうすぐこの薄暗くじめついた道を抜けられる。


そうしてここさえ抜けることが出来れば、だんだんと海や木々が見える海岸沿いに移行し始め、やがて彼女の求める場所へとたどり着く。



――あ。っと、その時唐突に気がつく。



俺は後ろをくっついて歩く彼女へと向き直った。


そうだ、俺はネトゲ慣れしていてぶっ続けで何時間もプレイできる。でも、彼女はそうはいかないんじゃないか?ビギナーであるなら尚更、緊張と画面の注視で疲労が蓄積しているはず。


『どうしました?』と、チャットで聞くyukiさん。


俺も彼女へと聞いてみる。


『もう三十分くらい経つけど、疲れてない?』


『はい、大丈夫です!』


『お、すごいな』


『すごく楽しくて』


実際、進行度的にはかなり順調だ。しかし、ここまでに要した時間は結構なもので、本来の攻略時間の倍は掛かっている。


その理由は、彼女のレベルあげと彼女自身にダンジョンを攻略してもらっているから。


もちろん俺が全てやると言う手もあるし、それならば十分とかからずに最終ボスまで終わらせることができるだろう。


でも多分、それは良くない。


ゲームってのは自分で攻略するからこそ楽しいんだ。そこを奪って見せる景色はきっと色褪せ、心に残らない。


だから出来るだけ彼女の手で。


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