第1話 出会い




――広大な土地、大規模な森林、果の見えぬ海。




そして蔓延るモンスター。


日夜奴らとの戦いが各所で行われ、それは文字通り休む暇もなく延々と行われている。


終わりのない戦い、あがるレベルと増えるスキル。


多くの英雄がこの世界へ導かれ、魔王を討つべく戦い続ける。


俺もまたその英雄の一人。



「......さて、デイリーでも消化するか」



しかし、ここは異世界でも無ければ俺は転生者でもない。ごく普通の『MMORPG』オンラインロールプレイングゲーム、まあ所謂ネトゲと言うやつである。


このゲームはMMORPG『Final《ファイナル》 Dragon《ドラゴン》』通称、FDと呼ばれ、世界に展開する大規模ゲーム。


ユーザー登録者数はなんと驚きの3000万にとどき、一時はプレイヤーが多すぎて購入制限されたほどの大人気ゲームだ。


俺、式村 春一はこのゲームにハマり5年を費やした。その結果手に入れたちょっとした名声とユニークスキル。そしてリアルでは視力低下によるメガネと、数字の落ち行く成績表。


『――高校生になっても毎日ネトゲ生活するん? ......このままネトゲ廃人なるん?』と脳裏で誰かの声が囁く。


「......うっ、がはっ!!」


っ......!!しまった、精神にダメージを負ってしまった!


くそ、ダメだ思い出すな!いまは世界の英雄、その戦いは熾烈を極め、雑念を抱えて越えられるほど優しいものじゃない。


ほら、顔をあげろよ俺......眼前に広がるこの素晴らしき世界を!


移り変わる時間により、その表情を変える美しい木々や自然、リアルには無い魅力あるキャラクターとの出会いと、その人々が織りなす重厚で感情を揺さぶる物語!


俺は確かにここで、このファイナルドラゴンの世界で生きている。生きている!!


現実では冴えないメガネ、ボッチ陰キャの俺だけれど、この世界では友達もいるし、憂鬱になって息が詰まる事もない。


なんて素晴らしい世界なんだ!ネトゲ最高、FD最強!ありがとう!!この世界で生きられるなら、廃人でいいよもうっ!!


......って、あれ?


モニターの前で無理矢理テンションを高める俺。その時、デイリーを消化しようと訪れたダンジョンに、一人のプレイヤーが入っていくのを見た。


ふと目を引くエルフ。後ろ姿ではあるが、その特徴的なツンととがった耳がエルフであることを示していた。


様々な種族であふれるこのゲームだが、あのツンツンした耳、通称エルフ耳になれるのはエルフのみで、あの耳にしたくてエルフを選ぶプレイヤーも多いらしい。


いや、まあ、そんな話は良いんだが。


「......あの人、初心者か。 名前の横に初心者のマークついてるし」


今もなお新規プレイヤーを大量に獲得し続けているFD。だからこそそこらじゅうで初心者プレイヤーを見かけるのは特に珍しい事でもない。そう、俺が驚いたのはそこじゃない。


問題は彼女の入っていった場所である。


「中級ダンジョン『ベイル』」


このダンジョンにはちょっとしたギミックがあり、それを理解し解けるプレイヤーでなければクリアは難しい。


とてもではないが初心者プレイヤー、しかも一人では第一ボスにも辿り着けずにリタイアだろう。


本来、四人パーティーが推奨されている中級ダンジョン、しかし上手い奴がやればソロでも攻略可能。


そのため腕試しでTA《タイムアタック》しているプレイヤーも多い。


(うーん......ここ、ダンジョンの仕様で迷い込んだら中々進めないんだよな。 そういや、噂ではここでトラウマになってFD辞めちゃう人もいるとか聞いたな)


......楽しむために始めたネトゲだろ?プレイしてまもないのに嫌な思い出を作っちゃうのは悲しいな。


しかたない。余計なお節介かもしれないが、ちょっと様子を見にいってくるか......ちょうどデイリーここだし。まあ、嫌がられたらすぐクエストリタイアして帰ればいいだけだからな。


短い葛藤を終え、俺は彼女の後を追いダンジョンへと侵入した。


ダンジョンへ入ると、驚くべきはその視界の暗さだろう。灯り魔法が無ければ道が続いている場所もわからない。


まあ俺のような何百回もきているやつなら見えなくてもクリアできてしまうんだが、今の目的は彼女を助けることだからな。


そんな事を考えながら、俺は光魔法を唱えた。


『フラッシュ』


岩でできた洞穴のような通路が、魔法フラッシュの光にあてられその姿を現す。


(このダンジョンの暗闇じゃあ、灯りがなければプレイヤーの姿を認識することもできないからな。って、あれ、あの子いねえぞ? ......もしかして手探りで奥に進んじゃってるのか?)


仕方ない、行くか。......てか、ストーカーみたいじゃないか俺。今更だけど、大丈夫かな。垢BAN《アカウント停止》されねえ?


そんな一抹の不安を携えて俺は奥へと進んだ。






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