第3話
***
形ばかりの転入式を早々に終わらせて、理事長室を後にした。
Fへの開示通り、僕はエマニュエルを学園内で探しまわった。
広い学園内の正門には白い噴水がある。
フレンチレース柄の噴水にまとわりつく水の向こうに、彼の姿をぼんやりと見つけ僕は大声を上げた。
「ねぇ、エマニュエル!」
彼は驚いて後ろを振り返る。見開いたエメラルドグリーンの瞳に跳ねる水滴が移ってキラキラと輝いている。
止まる彼に僕はぐんぐんと距離を詰め,やっと捕らえたウサギに大きな声をあげる。
「君を描かせてくれないか!」
すぐに踵を返しては校舎内へ入ろうとするエマニュエルの腕を掴んだ。
エマニュエルの細長い肢体はぐらりと傾いた。
「僕を描く?」
再度僕の方へつま先を向けようとするエマニュエル・モロー。
黄色味がかったグリーンの大きな瞳はさらに大きく見開かれ、まじまじと驚いた様子で僕を見た。
「そう、君を、描きたいんだ」
肩を落として息を整える僕の姿を見下ろして彼はニヤリとほくそ笑んだ。
「君って面白いね、いいよ?いつだい」
ゼイゼイ言っている姿が面白いのか、エマニュエルは高らかに腹を抱えて笑った。
「明日!」
腹から出るだけの大きな息を出して回答すると、エマニュエルは上品な顔から大胆な声を上げてケラケラと笑った。
「明日の全授業終了後はどう?」
「いいよ、君の部屋に行くね」
目尻から垂れる一粒のダイアモンドを人差し指の背で掬いながら、エマニュエルは小さく僕に答えた。
僕は幼いころから絵で生計をたてていた。
人物画は得意だ。
他人の家に行ってはその人物を描き、喜ばせるのが得意だった。
貯めたお金でこの学校へ入った。
成人しても、学校へ行かずとも食っていくことはできた。
それでも独学の僕の絵と、勉強の絵ではどこが違うのかが知りたかったのだ。
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