第10話

「俺は祖父に育てられたんだ。祖父と二人っきりで生きていた」


「俺が、まだ17歳くらいだったかな。俺の容姿を気に入ったお金持ちがどうしてだろう。どこから聞いたのかうちに来てね、帰ってくれないんだよ。支援してやるって」


「大学資金を援助するって…。申し出てきた。18になるまでの1年間。そう、猶予が1年だったから、17の時だったと思うな。決めろって。支援してもらうか、しないか」


「支援なんかしてもらう必要はなかったんだ。でもね、当時の俺は情けないことに学が全くなくてね、お金の計算はおろか、文字の読み書きすらできない田舎者だった」


「祖父は俺を心配していた。『どうやって生活していこうかって』嫁もとれないし、僕は力仕事は得意じゃないし、怠け者では…ないんだけどね」




窓の外は晴れている。




「俺が定期的に足を運んでいるのは、彼のところだよ」




「君も気づいていただろ」エマニュエルが眉をひそめて僕を見る。


彼のうるんだ瞳の中には僕が映っていた。




「祖父は、体が悪くーー」


言葉を詰まらせて、溜めていた涙が陶器の肌を伝った。


「噂は本当だ」「祖父には知られたくない」「これ以上、迷惑をかけたくない」彼は泣きじゃくった。僕は彼をぼぅっと見ていた。




エマニュエルは続けた「”彼ら”に抱かれるんだ。人形みたいに」


ーーー何の感情もない。




”何の感情もない人形”というのはどういったものなのだろうか。


無機質にただそこに存在して、相手のいいように扱われる存在。


そんなことがあってもいいのだろうか。


お金がある、ない。お金を渡す、渡さない。


何をしてもいいのだろうか。




彼の言葉の端々に感じる自尊心みたいなものーーーー。




僕は震える唇を噛み締め、エマニュエルを抱きしめた。


彼の心を考えると、とてもじゃないが悔しかった。


僕の知らない世界だった。




「でもね、愛や、恋を俺もしてみたかった…っ」








瞼を閉じると垂れる透明の雫に手が伸びてしまった。


「お願いだよ、レオ。一度でいい、汚い俺の体に触れてくれる?」




まるで、こうなる事が当たり前かのようにエマニュエルの手が僕の手に重なる。




ーーー捕えられた。




何てストーリーなんだ。


まるで決まっていたかのように、僕は唇へ伸びてくる白い手にくちづける。



 

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