第8話
***
学年が上がる報告を受けたのは夏の終わる前だった。
いや、まだ雪が残っていたかもしれない。
春の訪れを待つ前だったのは記憶している。
それも本当は定かではない。だって僕の目は彼しか感じていなかったのだ。
エマニュエルの寝息を聞かない日々に僕が慣れ始めた時の出来事だったのは確かだ。
「レオ!やばいって!エマニュエルが殴られてる!」
血相を変えて寮室に何名かが飛び込んできた。
優秀な僕の希望どおり、新しい年ではエマニュエルと同室となった。
彼も手放しで同じ部屋になったことを喜んだけれど、部屋に戻らない日もあったし、部屋にいない日もあった。
おかげで僕の成績はめきめきと伸びた。
差し詰め、僕も暇ではなかった。
後輩に絵画の筆の持ち方を伝授したり、先輩に石消しの使い方を教えたり、特体制として留学しないかと度々教授の部屋でお茶をもてなされていた。
酸味の無い珈琲が下の上で踊った。
チョコチップの入った乾燥しきったスコーンがとてもおいしく感じた。
ーーーそうだ、エマニュエルに珈琲は飲むのか質問しようと考えていたんだった。
慌てすぎた僕は窓から寮を出て、憶測で言われた場所へと走った。
僕がついてもエマニュエルは上級生に殴られていて、だらんと垂れた綺麗な顔からは血が流れていた。
頭に血が流れる感覚と目の前が真っ白になって、自分よりも一回り大きい男へ飛びついて馬乗りになった。
4人ほどの女子がキャアキャアと騒いでいる。
騒いだ声によってどよどよとギャラリーが増えていくではないか。
僕が馬乗りになろうがお構いなしに伸びているエマニュエルをまだ殴ろうとする上級生。
上級生が僕を振り払おうとエマニュエルの襟首を再度強くつかみなおしたところで後頭部に拳を一つ入れた。
上級生はよろめいたが振り返って僕の顔面へ一発かまそうと拳をあげたが、僕の寮室へ飛び込んできた三人が上級生と咄嗟に上がった僕の拳を押さえて乱闘は一時中断となった。
黄金色の土の上で砂埃まみれになったエマニュエルの横顔は、破壊された石像のように美しかった。
白いスカートの制服を着た女子の一人が、彼の口元から垂れる血液を白いレースのハンカチで拭っている。
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