第9話ーー交渉ーー

「ダメです。ダメに決まっているでしょう」


 生徒会室に到着して早々、私とあやなで提案を話してみたが、スズ先輩は、腕を組み呆れ顔で言う。


「SNS覗き見って、そう簡単なことじゃないし、リスクも大きいの」

「えっと……一回やってるんだから、二回も三回も一緒じゃ……」

「一緒な訳ないでしょ!」


 あやなの言い分をピシャリと止めるスズ先輩。

 そして、ですよね~、と言わんばかりの私です。


「あの時だって、不審なアクセスがありました、って部長に通知が行って、パスワード変えたりしてたみたいで、部長本人にも迷惑かかったのよ!?」

「そ、そうだったんですか……」


 あやなは、シュンとする。


「そもそも私達は、私達の世界で部長を待つものであって、部長の世界に行って、なんで戻ってこないの~?、とか恨めしく見てる時点で、あなた達はキモいストーカーと一緒よ!」


 グサリグサリと、見えない何かが突き刺さる。あやなだけではなく、私にも。

 この説教マシンガンになったスズ先輩を止められる人は、そう何人もいない。

 同級生であるヒメノ先輩でさえ、尻込みする程の迫力なのである。


「あの~、スズさん、少し言い過ぎでは?」


 その数少ない止めに入ったのは、生徒会室の奥のパソコン席に座っていた、顧問の先生であった。

 先生は座っていたので、私とあやなの角度から見てとれなかったが、スズ先輩はわかっていたようで、くるりと先生に向き直る。


「でも先生、ダメなことはダメと言わないといけませんよ」

「若いうちは色々と挑戦をすることもいいことよ。あやなさんのその発想や着眼点も良いと先生は思ったわ」

「でもだめです。違法ですから。いけないことは、してはいけません!」


 結局のところ、ダメなのだ、と理解しているあやなだったので、先生のフォローも本人には響いていないようだと、隣の私にも伝わってきた。


「スズさんはダメダメ星人なので、先生がアクセスしときました」

「……はい?」


 謎の空白の時間の後、スズ先輩はわなわなしだし、眉間に皺がよる。


「先生も部長のこと気になっちゃうし」

「セ・ン・セ・イ・?」

「はい、なんでしょう、スズさん」

「自分が何したかわかってます? 不正アクセスですよ! 不正!!」

「そうですね……今この瞬間に、部長に通知が飛んでいるはず……」


 先生は私達をキッと真剣に見つめた。

 スズ先輩は、この先生のことをジトっと見つめる。周りに黒いオーラが見えた気がした。


「さぁ! あやなさん、ゆまさん! 時間はありませんよ! 早くこちらでSNSをチェックしましょう!」


 スズ先輩が、とんでもない狂気に満ちた表情をしていたが、あやなは私の手をひっぱりそこをすり抜け、先生のいるパソコンへと連れていく。

 先生は、口ではあんなことを言っていたが、手が震えているのを私は横目で見た。

 やはり先生であっても、スズ先輩が怖いのか、それとも悪いことをしてしまった罪悪感なのかは分からない。

 それから、部長のSNS画面を見るのであった。

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