第15話ーーチョコ作りーー
「はぁ……」
「あ! ゆま先輩! ちゃんと混ぜないとチョコ焦げちゃいますよ!」
「あ! やばいやばい!」
2月。バレンタインデー直前。
私は、セナちゃん、スズ先輩と一緒にチョコレート作りをしていた。
家庭科室があまり広くないので、一回に三人までしか使用できないのだ。
「まーたサ終やらオフライン化の望みやらで悩んでるの?」
スズ先輩は、たまに鍋からの蒸気でメガネを曇らせながら、上の空だった私に問う。
図星をつかれた私は、またチョコレートをかき混ぜる手が止まってしまった。
「諦めなさい。私達はデータであって、この世界は誰かに作られたもの。いつ消えてもおかしくない身分なんだから、運命を受け入れるのよ」
「そんな言い方止めてください!」
セナちゃんは、体を私からスズ先輩へと向ける。
「確かに私達は、ゲームのデータであって、バグったり、なかったことにされることもありますけど、10年もここで生きていて、思い出もあって、今存在しているのは事実ですから! そんな無機質なオモチャみたいに言わないでください!」
スズ先輩は、激昂したセナちゃんの言い分を最後まで聞き、一言呟く。
「今は、ね」
目を伏せて、言い放った一言。
「サ終したら、ただの過去の産物。今は違っても、終わってしまえば無機質なオモチャみたいなものよ」
私には冷たく深く胸に突き刺さったが、セナちゃんの逆鱗に触れ、彼女は更に顔を真っ赤にさせ、何かを言い返そうとするところだ。
「あー! セナちゃん! チョコチョコ! ブクブクなってるよ!?」
「へ!? あっ! わー!!」
こうなると収集がつかなくなるので、慌ててセナちゃんを止める私。
ナイスタイミングでセナちゃんの鍋が沸騰していた。
「あっぶなーい……今年は最後のバレンタインデーだから、力作にしないとだめなのに……失敗する訳にはいきません!」
ーー最後のバレンタインデー
私は、はっとした。
大晦日や正月もそうだったけれども、毎年恒例行事だったものも、全て最後のイベント、になることを思い出す。
そして私のキャラクター設定もあり、失敗しても部長は喜んで受け取ってくれると思っていたし、きっと絶対にそうなるけれど。
「わ、私も失敗する訳には……!」
私は、自分の鍋に向き直ります。しかし、
「お前……どうかき混ぜたり溢れ返せば、そんなにチョコがなくなるんだい」
スズ先輩は、頭を抱えて、ハー、と大きなため息をつきながら言った。
鍋の外側からコンロ周りにいたるまでチョコレートまみれ。
肝心の鍋の中のチョコレートはというと、小指の爪程の深さがあるかないか、位しか残っていない。
ちょっと離れた所で、セナちゃんの、あちゃ~、という声が聞こえた。
「ま、まだ時間はあるので、掃除してもう一回作り直します!」
「後二時間しないでヒメノ達来るからね~」
スズ先輩は、丁寧に鍋の中をかき混ぜながら言う。
とても甘い香りが、家庭科室に充満していた。
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