第14話ーーオフライン化ーー


「オフライン化?」


 スズ先輩は眼鏡を押さえ、一つ溜め息をつく。


「また変な言葉覚えてきて……」

「何何? 変な意味なの? 下ネタ的な?」

「違うわ!」


 三年生の安定のお笑いが見られる生徒会室。

 スズ先輩は、パソコンと向き合っていたものの、突っ込みと同時に立ち上がり、ヒメノ先輩の元へと歩みを進める。


「今、私達の世界は、オンラインゲームってやつ。で、あなた達の言ってるのはその逆ってこと」

「あたしにわかるよう説明してよ~」


 ヒメノ先輩は、ガバッとスズ先輩に抱きつく。

 抱きつかれたスズ先輩本人は、毎度のことのようで驚きもしていない。


「あのー……それだと私もちょっと意味がわからないです……」


 恐る恐る、私もヒメノ先輩に同調し、説明を求めた。

 スズ先輩は抱きつかれたまま、表情も変えずに口を開くのであった。


「簡単に言うと、学討がサービス終了しても、ゲーム事態は残っているのよ。

普通ならサービス終了でトップ画面上からも抹消されるけど、アイコンも残ったまま。

存在が白紙になって、世界どこを探しても遊ぶことすらできなくなるのが、本来のサービス終了した姿よ」

「それって、まだあたし達と遊んでくれるってこと?」


 ヒメノ先輩は、ようやく抱きつくのをやめた。


「まぁ、新しいシナリオが追加されたり、イベントはないけれど、過去の物語をみたり、私達の音声を聞いたりできるのが一般的かしら」

スズ先輩は一度、ふぅ、と息をつき、でも、とつけたす。

「実際に私が体験した訳じゃないから、あくまで別ゲームの一例よ。もしオフライン化ができるようになっても、私達がそうなるとは限らないから」

「もしオフライン化になったら、今の私達は消えないってことっしょ?」


 ヒメノ先輩が問う。

 この、今の私達、というのは、今ここにいる私達のことを指している。

 別世界に別の部長や別の討伐部員がいることを踏まえると、この問題は拭えないものである。


「普通なら、消えるね、今の私達は」


 えっ、とヒメノ先輩は言葉を詰まらせた。


「部長達は学討を思い出したい、また思い出に浸りたいと思うから、オフライン化したここに戻ってみるのであって、今まで育てあげた私達を見たい訳じゃないから」

「でも、あたしらの部長がそうとは限らないじゃん」

「大抵の部長はそうなの。

だからオフライン化されたゲームの私達は、一律で親愛度もMAXの完璧な状態、持ってなかった衣装も全て配布されたり、見てなかったキャラクターエピソードも解禁されるんじゃないかしら」

「それじゃぁ、私達って結局……」


 我慢できず、私も口を開いてしまった。


「えぇ、オフライン化はあくまでも、学討が一応形を保っているだけであって、中のキャラクターは良い意味で、カンスト化をされるって感じね」

「悪い意味でしょ!」

「まだ解放しきれてない部長もいるんだから、いい意味じゃない」


 ヒメノ先輩とスズ先輩は、男だったら取っ組み合いの喧嘩になりそうな雰囲気になってしまった。

 せっかくの希望の光だったが、それは求めていたものと違っていた。

 生徒会室には、やけに大きく時計の秒針が響いている。

 それよりも大きく、私の心音が耳に届いていた。

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