第13話ーーフレンドーー

 年末年始を過ぎると、これといったイベントもバレンタインデーまで特にない。

 ましてや、終了日の発表日の後は『有償コイン』という、一種の課金システムもなくなってしまい、本当に何のためにここにいるのか、私もわからなくなっている状態です。

 私達でさえそう思っているのですから、部長はなおのことでしょう。

 気づけば部長の最終ログインは五日前となっています。


「暇だな~」


 ヒメノ先輩は、律儀に部室の黒板に書いてある日付を一日進める。

 本日の日付は1月17日。


「今日のログボ担当あたしだから来てみたけど、今日も来ないよね~」


 ヒメノ先輩はチョークを置き、大きく一つ溜め息をつく。


「バレンタインデーまでは来ないつもりですかね……」

「それな~、萎えるけど、そうっしょー」


 私の小さな声にヒメノ先輩は答えた。

 またあの優しい部長に会いたいけど、それは当分お預け。

 いえ、サービスが終了すれば、当分ではなく、ずっとお預け。

 一度楽しいことがあった分、私はとても辛くなり、俯く。

 それに気付いたヒメノ先輩は、あ!、と思い出したように私の手をひっぱる。


「ゆまも暇っしょ? 久々に他校の討伐部、見に行こうよ!」


 いきなりのことで、私は引っ張られるまま、部室から連れ出される形になった。




 他校の討伐部とは、いわゆるフレンド機能。

 昔は、部長もギルドという地域団体に所属をし、そこで他校の部長とフレンドになったようです。

 今は、ギルドを抜けている部長ですが、昔からのフレンドは、まだ残っているようです。

 私達二人は、フレンド名簿のある職員室に入ります。

 フレンド名簿を見てみると、他の部長の強さやログイン状況がわかります。


「うわー、ほとんどの部長が最終ログイン15日以上前じゃん」

 ヒメノ先輩がずらりと並んだ名簿を見て、あちゃー、と苦笑いする。

「きっとこれ、新年イベ見て終了ってやつでしょ、逆にうける~」


 そのまま部長の名簿下の欄の伝言を見る。

 ここでは、部長それぞれが好きな自己紹介をしているのです。


『さいごまで見届ける!』

『惰性。現在隠居』

『ハナコオオォォ! ハナコオオォォォ!!』

『オフライン化希望! 熱望!!』


 本当に個性のつまった欄なので、私達も定期的に見ています。

 ここで一つ、知らない言葉を見つけました。


「ヒメノ先輩、この『オフライン化』って、何でしょう?」


 ヒメノ先輩も首をかしげる。


「わかんないけど、スズならわかるっしょ? 秒で答えそう」

よし、と、ヒメノ先輩は、また私の手をひっぱる。

「そうと決まればスズの所に直行~! なんかミッションみたいで楽しくね?」


 ヒメノ先輩は、にかっと私に笑いかけてくれた。

 それまで少し気持ちが辛かった私ですが、久々にミッションをこなしているようで、なんだか私も楽しくなってきました。

 思わず、ヒメノ先輩の問いかけに、一拍あいてしまいましたが、はい!、と答えた私です。

 冷たく静かな職員室を出て、私達はスズ先輩が確定存在している、生徒会室へと足取り軽く向かうのでした。

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