第12話ーー素敵な夜ーー


 夜の11時、今日は学食の場面。

 その学食の席に私・ゆまが座っています。

 電気は薄暗く、自動販売機の電気の方が明るいくらいです。

 飲食が許されるのは、ここだけなので仕方がないのですが、正直結構怖いです。

 そんな時、部長が現れました。


「あ、部長。今日は年越しそばを一緒に食べられるなんて嬉しいです」


 私は目の前のテーブルにある、湯気がたち熱々のそばを見て言います。


「本当は、私が作って部長に食べさせたいところですが、なにせカップラーメンもまともに作れないので、部長から貰えて本当に嬉しいですし助かります」


 えへへ、と私は笑って見せる。

 設定上、私は料理オンチなのです。

 私自身は無自覚なんですけどね。

 部長の目線、いわゆるカメラアングルが一段階下がり、席についたのを確認してから次のセリフです。


「今年もたくさん部長と色々な思い出を作りましたね。なんだか目まぐるしい一年でした」


 9割は嘘。

全く部長はログインしてくれず、何の思い出もありません。

 残り1割、この瞬間だけは、私にとって良い思い出になりました。

 それはもう、今までログインされなかったのを許してあげちゃうくらいな思い出です。


「今年最後の日を部長と過ごせてよかったです」

あわよくば、明日も一緒にいたいです。

「大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします」


 私は、にっこりと優しく笑う。

 与えられたセリフはここまでで、後は私が一礼をし、暗転されて大晦日の特別演出は終了。

 ですが、10周年前夜祭の各メンバーがアドリブを入れていたのに、私だけが何も言えずにいたことが、未だに突っかかっていた。

 今、この時が、最高のチャンス。


「学園討伐部のサービスが終了しても、たまにはこの夜の出来事を思い出して下さいね?」


 私は頬を赤らめて、耳元で囁くような仕草で伝えました。

 二人だけの、内緒事です。


「それでは、良いお年を」


 私はここで一礼をし、それを合図に暗転しました。


ーーい、言えた……。


 私は安堵し、テーブルの上に残された年越しそばを見つめる。

伸びる前に食べなければ勿体ないので、私はそれを口に運びます。


「……おいしい」


 こんなに美味しいおそば、生まれて初めてで、何故か頬に涙が伝いました。


 自慢したいけど、私だけの宝物にしたい、そんな素敵な夜。

 部長は、この夜のこと、思い出してくれますか?

 この味、この匂い、このあたたかさ。

 きっと私は、私が消えても思い出すと思います。


 学食にそばをすする音と鼻をすする音が交互に響いていました。

 薄暗くて怖いはずなのに、私の心は明るく胸いっぱいでした。




 ちなみに、1月1日のおせち料理も私がいただきました。

 今回は与えられたセリフのみを演じましたが、二日連続で部長から特別な贈り物をされるだなんて……

 とても高級で、私一人では勿体ないほどの具材が並んでいます。

 でも、私だけが与えられた、大切なプレゼントです、誰にもあげませんよ。

 これは、私の勝ちだと、どや顔しても良いですよね?

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