第5話ーーメンテナンスーー


現在、学園討伐部では、

13時から16時の時間帯

メンテナンスを実施しております。

ご迷惑をおかけしますが、しばらくお待ちください。


 画面には、黒板にこの文面が書かれ、部活の顧問である先生がお知らせを読み上げた。

 部長はこの画面を見、そのままログアウトをする。


「あちゃ~、部長タイミング悪いよ~」


 安定の教卓に腰掛けていたヒメノ先輩が口を開く。

 今日は、おしゃれなスイングタイプのピアスが揺れる。


「今日あたしがログボ担当だったのに~」

「まぁまぁヒメノさん、まだ今日はもう来ないって決まった訳じゃないでしょう」


 先生は、ヒメノ先輩をなだめるように言うが、本人は口を尖らせている。


「それに! 明日はとうとうリリース10周年よ!」


 黒板の前に立っていた先生は、年甲斐もなくワクワクして口を開いた。

 近くにいる私は、その先生の様子に苦笑いを浮かべる。


「メンテ明け……今日は10周年記念の情報何かありますかね?」


 私が言うと、ヒメノ先輩はこちらを見た。


「あたしら部員は情報なしっしょ。部長と一緒に明日ドドーンって情報流れ込んでくるパターンね」

教卓からひょいっと飛び降りるヒメノ先輩

「それよりさ、前夜祭しようよ! きっと部長は、ログインしてもログボだけ貰っていなくなるんだから、あたしらだけ盛り上がっちゃおー!」


 ヒメノ先輩は、右手を突き上げ、盛り上げてやる。

 先生もそれにならって、おー!、と拳を突き上げた。

 そんな和気あいあいの部室に、扉が開く音が響く。

 開けたのは、スズ先輩のようだ。


「あ、いたいた、ゆま」

スズ先輩は眼鏡をクイッと持ち上げる

「昨日の返信来てたわよ」


 もう!?、と、私は思わぬ早い運営の返信に変な声が出た。


「ただ……その……内容が機械の定型文で……」

視線をそらし、申し訳なさそうなスズ先輩

「意見ありがとう、と、前向きに検討します、バグについては調査します、ってだけだったわ」

「そう、ですか……」


 溢れ落ちるように私は言った。

 少し、いや、とても落胆した。

 先生とヒメノ先輩は、何の話かわかっていないようで、キョトン顔である。

 ただ、空気が重いことだけは察する二人。


「あー……なんかよくわかんないけどさ、スズ!」

「ん? なによ」

「今日の夜、リリース10周年の前夜祭するから、部室に集合!、って校内放送流しといて~」


 三年生コンビは、二人で打ち合わせを始める。

 しかし私は、未だにあんなに考えた案を定型文で片付けられたことが悲しく、周りは浮かれている空間の中、一人だけ暗く思い詰めていた。


「ほ~ら、ゆま!」


 ヒメノ先輩は、バシッと私の背中を叩く。

 あまりの強さに私は、少し咳き込む。


「あたしとあんたは買い出し! 行くよ!」

「え!? あ、はい!」

「飲み物とお菓子買いにいくよ! 飲み物重いから持つのお願いね!」

「えぇっ、私だけが持つんですか!?」


 ヒメノ先輩は、強引に私を部室から購買へ引っ張り連れ出すのであった。

 その強引さが、少しだけ私の気持ちを軽くさせてくれた。さすが、ヒメノ先輩である。

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