第2話ーー上への提案ーー
部長がログアウトされると、私達は自由行動となる。
ホームと呼ばれる場所が部室となり、キャラクター個別ページが更衣室。
ログイン中は、基本この二ヶ所しか行き来できないが、そうでない場合は、校庭に行こうが食堂に行こうが問題がない。
私は、屋上で風にあたっていた。少し長めの前髪がさらさらと揺れる。
「あ! ここにいたんだ、ゆま!」
後ろから声をかけられ、私は振り返った。
そこには、腰まである茶髪を持った、のっぺらぼうがいる。
「あやな、どうしたの?」
「部長に会ったって聞いたから、どんな様子だったかな~って思って」
あやなは、パタパタと駆け寄ってきて、私の目の前で盛大に転ぶ。
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
「えへへ~、ごめんごめん」
「そのバグなんとかならないのかな?」
「本当だよね~、もう二年も放置で悲しいよ」
のっぺらぼうのあやなは、表情こそ分からないが、困ったように言う。
こののっぺらぼうは、技術的問題、いわゆるバグでこうなっているのだ。
「でもこのおかげで、どじっこ属性に磨きがかかって引き立ってる、ということで!」
あやな持ち前の明るさで切り返す
「こんなんだから、怖がられて部長、私の更衣室にもこないからさ、部長の話聞かせてよ!」
あやなは、食い入るように起き上がり言った。
「そう言われても、私もログボ担当なだけでよく見てないからなぁ」
「そっか~、でも、見てもらえるだけいいじゃん!」
「あやなも、バグが直ればきっと……」
私が言い終わるより先に、あやなは左右に頭を振る。それにならって茶髪が揺れた。
「たぶん、直らないよ、直さない」
「どうして、そんなこと言うの?」
だって、と、あやなは何かを言おうとしたが止まった。
しばし考える仕草をしたが、声を発する。
「これで私が定着してるから、今更、目とか口とかできたら、皆それはそれでクレーム来そうじゃない? もう、のっぺらぼうがトレードマークになってるし」
えへへ、とあやなは寂しそうに笑って更に続ける。
「それにさ、最近あちこちでバグがおきてるから、私よりそっちに力を入れなきゃ、上は」
そう言って、あやなは天を仰いだ。
上、というのは、運営やゲームの製作者等を指している。
私は、ハッとした。
「そうだ、上に連絡しようよ!」
私の言葉に、あやなは首をかしげる。
「運営に問い合わせをするんだよ! 今日はもう夜だから、明日の問い合わせ可能時間にお問い合わせフォームに連絡しよう!」
おぉ!、と、あやなも私の意見に同意した。
「あやなのバグの件と……そういえば、最近、各学校の討伐部の部長が来てくれないみたいだから、どうすれば戻ってくるか、案を出してみたりとか?」
「いいねいいね! じゃぁ、明日問い合わせる前までに考えてくるね!」
討伐部の全員が、部長に会えずに暗くなっていたが、私とあやなは小さな光を見つけたかのように喜んだ。
屋上には、強めの風が吹き抜けていたが、私の心は弾んでいた。
部長なら、どんな案がありますか?
私なら、まず、新しいイベントをしたら良いと思います。
ここ一年間は、ずっと復刻イベントと銘打って、過去に開催したイベントをやってばかり。
10年もの月日が流れたら、それはやむを得ないかもしれませんが、一年間もずっと昔をリピートされたら、わくわくしないと思うんです。
他には、何かとコラボするとか……でも、これはコラボ先とのあれこれがあるので、難しいですかね。
あと、CMをするとか! 新規部長の獲得もさることながら、そういえばこんな世界もあったなぁ、と部長が思い出して戻ってくると思いませんか?
これも製作費用とかで今すぐには難しいのかな。
新部員追加、とかも部員にも部長にも良い刺激になるかもしれませんよね。
考えれば考える程、たくさんの案が出てきます。
これを明日、お問い合わせフォームに書くためにまとめなければいけませんね。
こうしてはいられません。私、とってもワクワクしてきました。
にっこりと笑い、私は踵を返し、更衣室へと向かうのでした。
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