第18話ーーカウントダウンーー

 3月22日、本日から部長がイラストを毎日アップすると宣言していた日。

 不正アクセスに、もうなんの抵抗も感じていない先生は、ポチポチと生徒会室のパソコンをいじる。

 対して、罪悪感しかないスズ先輩は、不在である。


 3月22日のイラストは、ハナコちゃん。

 綺麗な若葉色の着物で、上目目線で小雪を掴む構図。

 どこか儚げですが、実物のハナコちゃんとはかけ離れてますね。


 3月23日のイラストは、セナちゃん。

 体操着姿の笑顔いっぱいで、ゴールテープを切っている構図。

 元気いっぱいのセナちゃんのこと、よく表現できてますね。


 3月24日のイラストは、あやな。

 陽の差し込んだ窓際で、のっぺらぼうのままパフでポンポンお化粧の構図。

 持っているコンパクトの鏡には、よく見るとあるはずのないあやなの顔がありますね。


 3月25日のイラストは、私・ゆま。

 屋上で白い息をこぼしながら、こちらに向かって微笑んでいる構図。

 告白シーンのところだとすぐに気づきました、とてもリアルですね。


 3月26日のイラストは、ヒメノ先輩。

 夏服の制服姿で、机にうつ伏せ状態でスマホをいじっているドアップ構図。

 もう、ヒメノ先輩の日常そのものですね。


 3月27日のイラストは、スズ先輩。

 真っ暗背景の中、1つのパソコンが煌々と光っており、メガネが怪しく光っている構図。

 敵の情報収集をしているそれそのものですね。


 これで一通り全キャラクターを単体で描かれた訳ですが、次の日からどんなイラストがアップされるのでしょうか。

 スズ先輩以外の部員は、毎日の日課として、生徒会室に集合していました。


 3月28日のイラストは、顧問の先生を中心に、ストーリーでキーパーソンとなったサブキャラクターの集合イラストでした。

 こんな人もいたいた、というキャラクターから、保健室の先生や購買の人などの今でもお世話になっている人まで、脇役ほぼモーラしているのではないでしょうか。


 3月29日のイラストは、討伐部員全員が部活動をしている、所謂戦闘シーンのイラストでした。

 鈍く光った剣、緻密に描かれた戦闘機、どろっとした返り血など、今まで見たことのない迫力のある大作です。


 3月30日のイラストは、うってかわって部員全員が冬の制服姿で、メンテナンス画面でお馴染み黒板前で戯れています。

 柔らかな色使いで、青春謳歌、という言葉がぴったりな和む作品です。


 そして本日、3月31日。


「見たいけど、見たくないなー……」


 生徒会室に向かう途中、あやなが呟いた。


「なんでですか~? 毎日すごいイラスト見れて幸せじゃないですか!」


 ハナコちゃんは、呟きに反応したが、


「その幸せが今日までなの、嫌じゃない?」


 セナちゃんがため息混じりに返す。


「今更、運命は変えれないのだよ! セナくん!」

「それはそうだけどさ……」


 セナちゃんの足が止まる。


「ならばその運命を華々しく彩った軌跡を拝みにいくぞー!」


 ハナコちゃんは、一人でずんずんと生徒会室に向かう。


「空元気なのバレバレなんだよな~」


 隣を歩いていたヒメノ先輩は、歩きスマホをしつつも、きっちりとハナコちゃんの声色などから心情を掴んでいたようだ。


「サ終時間は15時だから、まだ時間あるし、15時ちょっと前にイラスト見て、幸せのまま成仏ってのもよくない? 嫌なら後から見たら?」

ヒメノ先輩は、私とあやなの肩を同時にぽんと叩く

「未練だけは残さずいけよ~」


 ヒメノ先輩は、手をヒラヒラとさせて生徒会室へと向かった。

 たくさんついたブレスレットがじゃらじゃらとなる。

 廊下で佇んでいたセナちゃんだったが、彼女もまた歩みを進め口を開く。


「いつまでもモヤモヤしてたらあたしらしくないしね、元気だけが取り柄のあたしがこれだと、ハナコとキャラかぶっちゃう! イラスト見て元気だそうっと!」


 そう言い残すと、駆け足でみんなの元へと駆けていった。


「……ねぇ、ゆま?」


 あやなは私の方を見ていた。

 私は若干の笑みを浮かべて、一つ頷いた。

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