聞き取りだけでナゾを解く。誰も傷つかない日常ミステリー。

 第二多読室に引きこもっている鵜瀬夜(うのせ よる)は図書室のナゾを淡々と解いていく。
 彼女は図書室の一部を独占している変人だが、彼女の友達になった榎戸燈画(えのきど とうが)や彼女の幼なじみである羽原光(はばら ひかり)のおかげで親しみのあるキャラクターとして立ち回っている。
 作中の登場人物は魅力的で、特に第二章から登場する「部長」は物語を面白くするアクセントとして活躍している。
 キャラクター同士の関係も良く、刺々しさや陰湿さがないから読みやすい。第三章は犯人探しが行われるが、犯人を過剰に非難しない展開に好感を持った。
 
 この物語は全体的に優しい。鵜瀬夜のもとに訪れる謎は悪意など微塵もなく、それでいて好奇心が刺激される些細なものだ。

 この作品の特徴は、聞き取りで回答を導き出す。何気ない言葉のニュアンスから、論理的な思考で答えを見つける流れは鮮やかだ。

 ナゾのレベルも推理の組み立て方もわかりやすく、あまりミステリーを読まない人やこれからミステリーに挑戦する人におすすめしたい。
 ミステリー初心者でも楽しめる作品だから是非読んでほしい。

 

 ところでこの『多読室のレファレンス』は東京創元社×カクヨム学園ミステリ大賞に応募している作品だという。
 調べてみたところ、おそらく第一回目の公募だろう。どの年齢層をターゲットにしているかわからないだけに、応募した人は手探りで挑んでいる。

 新たな賞から本をだすのなら、新たにミステリーに興味を持つ読者を獲得してほしい。
 だから、キャラクター造形や文体などに読みやすい工夫を凝らし、ミステリーとして秀でている『多読室のレファレンス』を推したい。