平和で不思議で哲学的で優しい

 考えを巡らせるという意味の「思議」に「不」を付けると「不思議」になります。
 不思議という言葉は、使い勝手がいい反面、思考を止める作用があります。ロボくんから、時間旅行は誰もができると教わった時、もしかして我々はちょっと難しいことを「無理だ」と決めつけているのではないかと思ったのです。世界を大きく動かす力なんて必要はなくて、ちょっとだけ見方を変えるだけで、世界が素晴らしく見えるのです。

 まあ、そうは言ってもロボくんは「これくらい、特別なことではない」と言わんばかりに、なかなかにすごいことをしてみせます。ロボくんが気になる春世さんも「すごい!」と驚きます。
 それでもロボくんはできることをやっただけという態度で淡々としています。謎が多い彼ですが、不気味さではなく親しみやすさを抱きます。純朴な性格がロボくんの魅力なのです。

 本作は素朴で味わい深いやりとりが印象的で、本当の本当に何気のないセリフでハッとすることがあります。すぐ近くにあるのに気づかずに見過ごしていたけど、ようやく見つけたような気分になります。

 第三話のマボロッシーの話は友情について考えさせられました。
 友達のためにどこまでしてあげる?
 もう友達と会えなくなるのに?
 そもそも友情期間っていつまで?
 なんとなく友達になって、たとえ会えなくても友情は消えない。素敵です。

 平和で不思議で哲学的で優しい物語を読みたい人におすすめです。