第二多読室に引きこもっている鵜瀬夜(うのせ よる)は図書室のナゾを淡々と解いていく。
彼女は図書室の一部を独占している変人だが、彼女の友達になった榎戸燈画(えのきど とうが)や彼女の幼なじみである羽原光(はばら ひかり)のおかげで親しみのあるキャラクターとして立ち回っている。
作中の登場人物は魅力的で、特に第二章から登場する「部長」は物語を面白くするアクセントとして活躍している。
キャラクター同士の関係も良く、刺々しさや陰湿さがないから読みやすい。第三章は犯人探しが行われるが、犯人を過剰に非難しない展開に好感を持った。
この物語は全体的に優しい。鵜瀬夜のもとに訪れる謎は悪意など微塵もなく、それでいて好奇心が刺激される些細なものだ。
この作品の特徴は、聞き取りで回答を導き出す。何気ない言葉のニュアンスから、論理的な思考で答えを見つける流れは鮮やかだ。
ナゾのレベルも推理の組み立て方もわかりやすく、あまりミステリーを読まない人やこれからミステリーに挑戦する人におすすめしたい。
ミステリー初心者でも楽しめる作品だから是非読んでほしい。
ところでこの『多読室のレファレンス』は東京創元社×カクヨム学園ミステリ大賞に応募している作品だという。
調べてみたところ、おそらく第一回目の公募だろう。どの年齢層をターゲットにしているかわからないだけに、応募した人は手探りで挑んでいる。
新たな賞から本をだすのなら、新たにミステリーに興味を持つ読者を獲得してほしい。
だから、キャラクター造形や文体などに読みやすい工夫を凝らし、ミステリーとして秀でている『多読室のレファレンス』を推したい。
登場人物達はキャラが立っていて、親しみを持てる。特に物語の推理役は魅力的。ミステリアスな凄みを持っていて、今後の大きな活躍に期待が持てると感じた。
ミステリーというジャンルではあるが、硬派さは感じない。文章は読みやすく、難解な描き方をしていない、それでいて状況描写はしっかりされているので、情景がイメージしやすく、誰でも親しみやすい。
ミステリーの内容も舞台の中心となる図書室という要素を十二分に活用していて、面白い。題材に沿わせる工夫を感じる。
ただ、個人的に書き出しや序盤の展開は少しありきたりに感じた。掴みは少々弱いかもしれない。
とりあえず4章の結末が気になるので続きを読みたい。