オレンジジュース以上 コーヒー未満

成人は18歳。とはいえ、成人したから、卒業したからとスイッチが切り替わるように大人にはなれません。
『アンコール』からは、社会とそこに育つ心や体が少しずつ嚙み合わず、軋むのが聞こえて来るようでした。

作中、そんな主人公の年齢や立ち位置、心理、疲弊を鮮やかに描き出す役割を果たしているのが「オレンジジュース」。
多くの人には、このオレンジジュース特定の味、甘さが思い浮かぶでしょう。それだけに大人とは結び付き難いアイテムかもしれません。
それを登場させ、更に距離感を作ることで主人公の、自分でさえどうにも出来ない未完成が可視化されるように感じました。

『甘いオレンジジュースが感傷をざくりと傷つけたのがはっきりと分かった。』

その上で出て来る、この表現が私はとても好きです。

些細な舌の好みさえ繊細に変わって行く時が人生にはあります。ですが、それを克明に把握できる時ばかりでもありません。
それをまだ自然と出来ている主人公であることに小さな強さと希望を感じながら、ラストの光景を眺めました。